データ流通市場の歩き方

株式会社日本データ取引所の公式ブログです。

【お知らせ】中央大学AI・データサイエンスセンター「オンライン・レクチャーβ:社会の未来(2021年度第3回)」に登壇しました

中央大学AI・データサイエンスセンター「オンライン・レクチャーβ:社会の未来(2021年度第3回)」の登壇スライド表紙画像

 

2022年3月15日、当社メンバーの上島が、中央大学AI・データサイエンスセンター「オンライン・レクチャーβ:社会の未来(2021年度第3回)」に登壇した動画が公開されました。

学生の方向けに「これから求められる人材像」について、ベンチャー企業の視点から解説。そのうえで、「データの民主化」という観点から「未来の社会」について考察しました。

動画は中央大学YouTubeチャンネルでご覧いただけます。また、投影資料も無料で公開しています。ぜひごらんください!

 

■動画

www.youtube.com

 

www.chuo-u.ac.jp

 

■投影スライド

speakerdeck.com

【イベントレポート】エスカレーターから花火大会まで!?:マルチエージェント・シミュレーションのビジネス活用事例──第5回データ流通市場の歩き方(後編)

第5回データ流通市場の歩き方イベントバナー

 

ビジネス・アカデミア、それぞれの現場から「マルチエージェント・シミュレーション(MAS)」の実践者を招いて行われたミニシンポジウム「エスカレーターから花火大会まで!? マルチエージェント・シミュレーションのビジネス活用事例」。

前編では滋賀大学データサイエンス教育研究センター准教授の松島裕康さんが、MAS研究の実状とその社会利用、そしてデータサイエンスとシミュレーションの結びつきが持つ可能性について解説くださいました。

後編では株式会社構造計画研究所の北上靖大さんより、MASのビジネス活用事例についてお話しいただいたのち、お二人による座談を行います

 

前編記事

blog.j-dex.co.jp

 

 

意思決定を支援する

北上靖大(株式会社構造計画研究所

北上です。私は株式会社構造計画研究所の社会デザイン・マーケティング部門で、社会シミュレーションを企業や社会の課題解決につなげる取り組みを行っています。具体的には、大規模な避難安全の検証や次世代モビリティ導入に向けての課題などについて、主に社会シミュレーションを用いた技術コンサルティングを提供しています。他にも「artisoc Cloud」というクラウドを用いたMASプラットフォームを開発しており、社会シミュレーションの普及や現場への実装の促進を目指しています。

 

mas.kke.co.jp

 

さて、本日はMASのビジネス活用事例についてお話しさせていただきます。まずは、当社がどのようなソリューションを提供しているのかというところから、具体的な事例やわたしのMASに対する考えへと繋げていければと思います。

 

当社は建物の構造設計から始まった会社で、超高層の免震・制振といった設計を手がけております。こうした災害に強い街づくりの支援から徐々に領域を広げ、現在ではシミュレーションを使った製造業向けの解析等の支援や、電波解析のような情報通信に関連する技術コンサルティング業務も行っています。このように、工学的手法に立脚して社会を構成するモノやしくみなどの様々な課題を解決することに取り組んでいます。今日はこうした取り組みの中でも特に「意思決定に対する支援」についてご紹介できればと思います。

 

では、意思決定支援とは具体的に何をするのでしょうか。当社ではひとりひとりの「人」の考えや行動 に基づく社会現象の モデリング&シミュレーション によって、 顧客の課題を解決する施策の評価等の支援を行っています。「ひとりひとりが何を考えているのか」「どんな価値観を持って行動しているのか」「それら個人が集団になるとどんな挙動をするのか」といった、わたしたちの社会の振る舞いをモデリング・シミュレーションすることにより、どんな制度や施策が適しているのかが議論しやすくなり、意思決定のポイントについて理解が深まります。

複雑な社会を理解する

北上

わかりやすい事例として、渋滞の発生をシミュレーションで確認してみましょう。このモデルは、1. 前の車を追いかける、2. 車間距離が短くなったら減速する、2. 車間距離が長くなったら加速する、という3つの単純なルールで構成されています。そしてここに、それぞれの車の速度のバラつきや減速・加速のタイムラグといった、現実の運転を反映する要素を追加します。するとどうでしょう。ある車の速度が落ちると後ろの車は車間距離が詰まるので減速し、さらに後ろの車も同じように減速します。このように減速が伝播しながらタイムラグが増幅されていくことによって、渋滞が引き起こされるんですね。

 

他には、災害のメカニズムも重要な検討対象です。風水害や地震といった自然災害が多く発生していますが自然現象からの直接被害だけではなく、停電で工場や物流が止まり社会活動全体が停止するといった、三次災害・複合的な被害も重大です。こうした大災害のメカニズムは必然的に非常に複雑な要素間の関係を伴いますし、時間的・空間的にも広範囲な検討が必要です。このように、人間が全体像をイメージすることが難しい複雑な関係を、MASを用いて読み解くことで、適切な災害対策が可能になるかもしれません。

 

ここまで見てきたように、わたしたちの社会とは様々な要素が相互に影響し合うことで成立しているシステムです。加えて近年は情報通信技術の発達に伴い、その繋がりがより複雑かつ広範囲になっています。また現代はライフスタイルの視点でも、多様な価値観を尊重する社会へと移行しつつあり、その複雑性を増大させているといえるでしょう。こうした社会の中では、様々な解を示すことで望ましい姿を模索していくことが重要なのだと思います。そして、そこで求められる方法の一つがシミュレーションなのでしょう。

 

社会実装のための多様なアプローチ

北上

このようにMASを捉えてみると、それはリアルとデジタルをつなぐ箱庭(人工社会)だといえるかもしれません。わたしたちはこの人工社会を読み解くことで、相似的にリアルな社会課題の解決策を見出していきたいと思っています。

 

www2.kke.co.jp

 

ここまで、社会課題とMASがいかに繋がるのかを紹介してきましたが、当社はこの分野に1990年代後半から継続的に取り組んでいます。その一つがシミュレーションのためのツールや環境の整備で、2000年に「KK-MAS」という国産のマルチエージェントシミュレーターをリリースしました。2006年にはその発展版である「artisoc 」を、2020年には「artisoc Cloud」としてクラウド版のツールを開発しました。この「artisoc Cloud」はウェブブラウザ上で手軽にモデルの作成が可能なマルチエージェントシミュレーターであり、クラウドを利用することで大量並列計算による高度なシミュレーションやデータの共有ができるという特徴があります。

 

mas.kke.co.jp

 

他には学会や研究会といった成果発表の機会提供にも努めており、人工社会に関する教科書等の出版や、MASの関連情報を収集するウェブサイト「MASコミュニティ」の運営など、知見の整理と発信も模索しています。

 

mas.kke.co.jp

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社会の未知を探索する

北上

では、MASを用いた当社の具体的な事例をご紹介しましょう。まずは、防災に関する事例からです。こちらは東京大学生産技術研究所の加藤孝明先生と共同研究を行った、首都直下地震に伴う大規模火災における避難の検討です。1923年の関東大震災では火災による大きな被害がありました。現代の都市で首都直下地震が発生した場合、火災による逃げまどいがどのように発生するか、そして時間帯・風向き・火元の分布といった様々な火災のパラメータの組み合わせでどのような条件が重なると被害が拡大するのかを検討しました。

 

次は、鎌倉市から委託を受けて実施した津波の避難検討の事例です。鎌倉市は観光地で多くの観光客も訪れるため、人をよりスムーズに避難させるにはどのような施策が適しているか、主にソフト対策を主眼として検討を行いました。

 

構造計画研究所ニュースリリース「地域特性を考慮した津波避難の施策検討支援~ 鎌倉市の導入事例 ~ 」

 

こちらは広域での避難検討の事例です。30km〜50kmといった県全体に及ぶ広域で避難が行われた場合、ほとんどの方が車で避難することとなり、交通渋滞をはじめとしたリスクが懸念されます。そこで、シミュレーションを用いてスムーズな避難の検討を行いました。他にも河川の氾濫など、様々な災害に対して適切な避難の検討を行っています。

 

シミュレーションの様々な活用法

北上

他にも社会における情報発信や啓蒙活動にMASを利用した事例をご紹介します。これまでエスカレーターでは、片側は立つライン、もう片側は歩くラインという片側空けの利用が暗黙の了解となってきました。しかし、エスカレーターでの歩行は接触等の事故の危険もあり、安全な移動のために立ち止まってのエスカレーター利用を促す取り組みが進められています。このエスカレーターの片側空けの利用は、急ぐ人が効率よく利用できるようにとの配慮によるはずですが、全体として見た場合、そもそも本当にこれは効率のいい乗り方なのでしょうか。エスカレーターにおける交通効率をシミュレーションを用いて確かめてみました。

 

mas.kke.co.jp

www3.nhk.or.jp

 

シミュレーションでは20m程度のエスカレーターを想定し、左側が立ち止まるライン、右側が歩くラインとしてモデルを構成しました。実際にこれを動かしてみると、個々人を見れば当然、歩く人の方が早いのですが、実はこの歩く人の割合はラッシュ時であっても全体の4割以下程度です。全体として見ると、全員が立ち止まって利用した方が輸送効率が高くなることがわかります。このように、MASを用いて俯瞰的な視点で社会問題を眺めることで、個の選択が全体に与える影響をわかりやすく可視化して理解に役立てることができます。

 

こうした新たな視点の提供や情報発信も社会シミュレーションの大きな役割のひとつだと思っているので、引き続きMASの多様な社会実装に取り組んでいきたいです。私の発表は以上です。

 

上島邦彦(株式会社日本データ取引所)

ありがとうございました。複雑な利害関係や環境条件といった、人間が十分に取り扱えない現象のような検討が必要な時に、MASが俯瞰的な視点を提供しうるという見解が興味深かったです。そこに産業利用の鍵があるのですね。

 

松島さんの発表では、実データを用いて平時の現実を理解し、そこから非常時をシミュレーションするという手法が紹介されていましたよね。でもそれだけではなく、より抽象的な事例において「何を考えていくべきか」「そのためには何のデータが必要になるか」といった探索のためにもシミュレーションが活かされているわけですね。今後の広がりを感じさせるお話で、とても面白いです。ありがとうございました。

 

シミュレーションに必要なデータとは

上島

さて、ビジネスとアカデミアという異なる視点からのお話でしたが、人間が扱えないスケールの事象や、複雑な関係性から立ち現れる現象を検討する際に役立つ、という見解は一致しているように思えました。避難訓練・天災・犯罪・イベントといった、現実世界で気軽に試しづらいケースを考える際にも有効だと。エスカレーターのシミュレーションは、文化や慣習という変えがたいものに対する想像を導いてくれる点で魅力的でした。

 

MASの実践は大きく2段階から成ると言えるでしょうか。まずは平時の現象からパターンを抽出し、メカニズムを解明することで、それらをモデルとして表現する段階。そしてそのモデルを使ってシミュレーションを行う段階、と。その先に、モデルのルールやパラメータを変えて、実社会における制度設計や政策立案が可能になると。

 

これらを踏まえてお二方に伺いたいのは、「MASにはどんなデータが必要でしょうか」。もちろん、表現したい現象の複雑さやシミュレーションの目的によって様々かとは思いますが、「この事例ではこんなデータが使えました」「こんなデータあればよかったのに」といったことでもかまいませんので。

 

松島裕康(滋賀大学データサイエンス教育研究センター 准教授)

単純な例では、人流シミュレーションには人の動きのデータが必要ですよね。花火大会の人流を研究した時は、実際にGPSロガーを持った人を10〜20人くらい紛れ込ませて位置や移動速度のデータを取りました。ただそれでも目的に合わせて必要なデータは異なるので、何が必要でそもそも何が使えるのかを関係者と相談をしながら詰めていくこと自体が重要なのかなと思います。

 

上島

ある組織がどんなデータを持っていて、それがどのくらい重要かを全員が理解しているわけではないので、手持ちのカードと目的のすり合わせが必要だと。ところで、GPSロガーのデータって10人くらいでも十分なものなのでしょうか。

 

松島

もちろんたくさんデータを集めれば、より細かいところまで見えるかもしれません。しかし、まずは荒くてもデータを取って再現モデルをつくってみる。その上でデータの取り方やモデリングの仕方を再度検討する、というやり方の方がスピーディかと思います。もちろん他にも、例えば避難訓練であれば扉の開閉数や観客の誘導の有無といった、環境条件も重要なパラメータになります。

 

上島

北上さんはいかがでしょう。例えば「artisoc Cloud」を使いたいという相談があったとしたら、どんなデータをおすすめしますか。

 

北上

そうですね。シミュレーションの抽象度によるかと思います。抽象的なシミュレーションの場合はデータを取ること自体が難しいので、まずは仮定したルールからシミュレーションを行い、その結果を分析することが一般的です。一方で現実に合わせた具体的なシミュレーションでは、現実を模したモデルをつくらなくてはならないので、大量のデータが必要になるかと思います。これは要するに、現実の施策のテストベッドとしてモデルを使うような場合ですね。こうした解像度のモデルをつくるにはある程度個々人の行動原理をモデルにできるようなデータがあると有用かもしれません。

 

松島

北上さんのおっしゃるように、個々人の行動原理まで見えるデータがあると人工社会をシミュレーションする上で有用だと思います。そもそも人の行動のモデリングは難しいので、行動パターンが見えるデータが取得できれば、新たな手法やサービスに繋がるでしょうね。

 

上島

お二方のお話をまとめると、必要なデータは3通りが考えられますね。まずは環境の「状態」に関する情報。次に、環境の中で起きる現象の「挙動」に関する情報。最後に、その現象を引き起こすエージェントの意思や行動原則など、「ルール」に関する情報。これらが揃うことで、現実に即した人工社会をシミュレーションできると言えるのではないかと思いました。

 

適切なシミュレーションのための事前設計

上島

実際の分析事例は、どのような相談から始まるのでしょうか。

 

北上

松島さんもおっしゃっていましたが、クライアントが抱えている課題から出発してデータやモデルを検討していくケースが多いですね。そしてここで重要なのがモデリングのメリハリです。クライアントの課題を解決するためにはどこの解像度を上げ、どこを捨象すべきかを注意深く意思決定していきます。全体をつくり込むとデータ量もコストも膨大になってしまうので、課題・目的に即してバランス良くモデルを設計することが大切です。

 

上島

毎食フルコースを食べるわけにはいかないので、一番食べたいのは何か、どれくらいお腹が空いているのか、どんな栄養が必要なのか、といった判断基準を設けるわけですね。

 

北上

それにデータが膨大になると分析や解釈も難しくなりますので、シミュレーションした結果の分析まで見越してデータを揃えています。

 

上島

松島さんはシミュレーション結果の解釈に困ったことはありますか。

 

松島

わたしも北上さんと同じく、事前に気を付けて調整するので実際にはあまり無いですね。モデリングを可能な限りシンプルにして、シミュレーション後の評価軸も事前に目星をつけておくことで、混乱は避けられると思います。もしそれでも不明な結果が出た場合は、シミュレータにバグがなかったか、あるいはそれは現実に起こりうる事象なのかといった検証を行います。

 

上島

逆にいえば、実際のシミュレーションに移る前に、クライアントや共同研究者の方と「どこに着目したいのか、何を知りたいのか」を見極めておく必要があるわけですね。

 

松島

そうですね、対話を重ねながらどんなデータやモデルが適しているかを探ることで、シミュレーションを洗練させていきます。

 

上島

データ分析の中には、データを単独で再集計しパッケージ化して納品、といった分業的なやり方も多いですが、MASはクライアントとの共同作業に近いのですね。

 

共に探索し、共に納得する

上島

ビジネスの現場では、クライアントとどのように合意形成しているのでしょうか。MASでは分析だけではなくその前提となる要件定義、ひいてはそれをすり合わせるためのコンサルティングのフェーズが非常に重要だと感じました。ヒアリングの頻度や期間など、おおまかな目安はあるのでしょうか。北上さんいかがでしょう。

 

北上

ケースバイケースではありますが、やはり課題の全体像とマイルストーンを描いて、それに従ってプロジェクト単位に切り分けながらコミュニケーションを深めていくことが多いですかね。

 

上島

かなり抽象的なレベルから、クライアントと一緒に課題の解像度を高めていくわけですね。そうしますと、プロジェクトの期間もかなり長くなるのではないでしょうか。

 

北上

クライアントとの対話の中で徐々に課題が見つかっていくので、期間もかなりバラつきがありますね。

 

上島

クライアントがつまずきがちな部分、あるいは進めるのが難しい依頼などはありますか。

 

北上

「MASを使うことで正確な予測ができる」と考えてご依頼いただく場合も多いのですが、ここまでご紹介したとおり、実際のMASはどちらかというと複雑な事象の中で何が起きているのかを理解するような使い方が多いかもしれません。予測が目的であれば別な手法のほうが適している場合もあります。MASの特徴を共有しながらどう活かしていくかを一緒に考えることが重要ですね

 

上島

「明日雨が降るか」を予測するだけなら別の手法でもいいけれど、その背景にある気象と社会の関係性、あるいは「ゲリラ豪雨がなぜその場所で発生するのか」といった局所的なメカニズムを理解したい場合はMASが適している、というわけですね。

 

北上

はい、全体の構造の仮説を検討することに向いていると思います。

 

上島

MASはクライアントの課題や取得できるデータに合わせて臨機応変に対応ができる反面、そうした前提認識が明確化できないと進めづらいのかなと思いました。松島さんは共同研究の際などに困った経験はございますか。

 

松島

課題が不明瞭だと難しいのは確かですね。クライアントの方々に見えている専門的な悩みや所感というのはわたしたちにはわからないので。課題というスタート地点を共有することではじめて一緒に検討ができるようになるのだと思っています。

 

上島

面白いですね。データ分析では具体的な結果、あるいは逆に抽象的な提言を求められるケースが少なくありません。しかしMASではその間にある「過程」の部分を時間をかけて理解していき、答えに納得感を得ることが重要なんですね。だからクライアントも単なるサービスの受け手ではなく、一連の「過程」を一緒に体験するという姿勢を持って、MASについての知見を深めることで、よりよい協同関係が築けそうです。

ちなみに、MAS入門者に向けたおすすめの書籍やサイト、資料などはございますか。

 

北上

先程もご紹介しましたが、当社運営のウェブサイト「MASコミュニティ」などは参考にしていただけると思います。当社では課題へのアプローチを一緒に考えていくスタンスで業務を進めているので、気軽にお声掛けいただければ嬉しいですね。

 

mas.kke.co.jp

 

松島

構造計画研究所さんのサイトや書籍は非常に綺麗にまとまっているので、わたしもおすすめです。あと「artisoc」も教育機関向けのものが無料で使えますから、本やサイトを参考にしながらいじってみるといいんじゃないでしょうか。

マルチエージェント・シミュレーションのこれから

上島

最後に、お二人が研究や業務のなかで感じているMASの応用可能性について展望を伺います。「この分野とMASは親和性があるんじゃないか」「このデータがあるとこんなことができそうだ」といった直感的なものでかまいません。

 

松島

もう行われているのかもしれませんが、ブロックチェーン技術とは親和性がありそうだと感じます。プロックチェーンは情報の変動の軌跡をネットワークで相互監視することで保証するわけですよね。こうしたネットワーク構築の仕方やその運営のためのリソースの取り方は、MASにおけるネットワークのシミュレーションなどと親和性がありそうだなと思っています。

 

上島

技術の性質は相性がよさそうですよね。北上さんはいかがでしょう。

 

北上

私は個人の活動が社会全体にフィードバックされるところに、MASの面白さの一端があると思っているので、街づくりの領域で新しい展開ができるといいなと。例えば、都市活動とエネルギー消費の関係などは興味深い介入点になるかもしれません。特にスマートシティ開発などは新しいテクノロジーを求めていますから、親和性は高そうです。

 

上島

近年はメタバースやデジタルツインといった、実社会を大量のデータと計算資源で理解・再現する研究が脚光を浴びています。MASは最初から大量のデータがなくてもシンプルなモデルを通じて現象を探索できるので、都市の複雑な関係性を再現する第一歩になりうる分野なのかもしれませんね。

 

わたしも当初は、MASは抽象的で複雑なことをやっていると思い込んでいました。でも今日のお話で、課題と実社会のあいだを繋げるための適切な解像度をデータから導いていくことを重視しているんだな、と認識を新たにできました。本日はありがとうございました。

 

編集:瀬下翔太

協力:森実南

企画・制作:「データ流通市場の歩き方」編集部

【イベントレポート】エスカレーターから花火大会まで!?:マルチエージェント・シミュレーションのビジネス活用事例──第5回データ流通市場の歩き方(前編)

第5回データ流通市場の歩き方イベントバナー

 

エスカレーターを安全に、公平に使うには?」

「花火大会の会場から最寄り駅まで、安全に移動できる経路は?」

こうした問いを、実社会で検証することはなかなか難しいものです。でも、コンピューターで計算できたらどうでしょうか?

加速する技術発展や世界規模の感染症拡大など、めまぐるしく移り変わる現代社会において「いかにして未知の事象を予測するか」は一大関心事となっています。そして近年、これを探求する一つのアプローチとして「マルチエージェント・シミュレーション(MAS)」と呼ばれる手法が注目を集めており、急速に社会実装が進められています。 データ活用において、MASはいかなる可能性と課題を持っているのでしょうか。

そこで日本データ取引所では、ビジネスとアカデミアそれぞれの現場からMASの実践者を招き、シミュレーション研究の最前線とその社会実装をテーマとしたミニシンポジウム「エスカレーターから花火大会まで!? マルチエージェント・シミュレーションのビジネス活用事例」を行いました。そのレポートをお届けします。

前編では、滋賀大学データサイエンス教育研究センター准教授の松島裕康さんより、MAS研究の実態とその社会利用、そしてデータサイエンスとシミュレーションの結びつきが持つ可能性についてレクチャーいただきました。

 

 

シミュレーションとビジネスの未来

上島邦彦(株式会社日本データ取引所)

 「マルチエージェント・シミュレーション(MAS)」とは、人や生物、組織といった複数の主体(マルチエージェント)の相互作用をシミュレーション(仮想実験)することで、現象の背後にある構造を理解したり、その仕組みを解析する手法です。

近年、このMASを大規模な社会課題の解決や、新たなビジネスに応用する動きが活発化しています。例えば、人流シミュレーションを安全な空間設計に活かす事例を筆頭に、金融、IoT、不動産など様々な分野へ展開されています。そして同時に、こうした応用には多くの課題や制約があることも事実です。

 

こうした現状を踏まえ、本日はふたりのゲストをお招きしてマルチエージェント・シミュレーション研究の最前線と、その社会実装について語り合っていただこうと思います。

まずは、滋賀大学データサイエンス教育研究センター准教授の松島裕康さん。そして、株式会社構造計画研究所の北上靖大さんです。アカデミアとビジネス、それぞれ第一線で活躍されているおふたりの対話から、シミュレーションデータを活かしたビジネスの未来について考えていきましょう。

それではまず松島さん、お願いします。

 

シミュレーション研究の多様性とその社会実装

松島裕康(滋賀大学データサイエンス教育研究センター 准教授)

松島です。私は現在、滋賀大学データサイエンス教育研究センターでマルチエージェントを用いた社会シミュレーションを研究しています。本日はこの中から、人流シミュレーション交通シミュレーションについて紹介したいと思います。

 

そもそも「エージェント」とは何でしょうか。コンピュータ・シミュレーションを行う際には、情報空間に人やモノを表現する必要があります。これはつまり、センサなどを通じて環境を知覚し、それに反応を返すソフトウェアが必要ということです。一般的に、こうしたソフトウェアを「エージェント」と呼びます。特に人工知能研究では「知的エージェント」といって、エージェントの環境との相互作用に最適化や報酬設計といったルールを設定し、いかにして環境に適応するのかが研究されています。そしてこのエージェントが複数存在する場合を「マルチエージェント」と呼ぶわけです。

マルチエージェントの定義

図版1 当日投影資料より転載

ではここで、マルチエージェントをイメージするための具体例として「ロボカップ」を見てみましょう。ロボカップはロボットを用いてサッカーを行う競技ですが、この一環としてシミュレーションリーグという、シミュレーション内でエージェント同士が競い合う種目があります。ここでは、エージェント同士の相互作用によって、オフェンスやディフェンスといった競技上のタスクをいかに達成できるのかが問われるわけです。こうした問題の探求はMASの大きなトピックのひとつですね。

 

www.robocup.or.jp

 

他方で、環境やエージェント同士の相互作用から生まれる創発現象も研究の対象になっています。これには多くのモデルが知られていて、空間内にどのように食料が分布しているのかをもとにアリの社会の形成をシミュレートする「Sugarscapeモデル」、衝突回避・整列・接近という3つのルールだけで鳥の群の形成を再現する「ボイドモデル 」、現実社会でも度々問題視される、人種にもとづいた居住場所の偏りを示した「シェリングの分居モデル」などがあります。

 

mas.kke.co.jp

 

また、こうしたシミュレーションを社会実装する動きも顕著です。例えば、コミュニティの人の繋がりを検討したり、物流や製造に関わるロボットの動きを最適化するためにもMASが用いられています。近年では、空港におけるテロを防ぐために警備員のリソースをいかに配分するか、といった問題を「ゲーム理論」を応用して検討する事例もあります。

 

スムーズな社会をシミュレーションする

MASと社会制度設計

図版2 当日投影資料より転載

松島

こうした社会への展開のうち、私が関わった研究について紹介しましょう。1つ目は、劇場のような建物における会場からの避難について、実際の避難訓練とシミュレーションを用いて検討した研究です。まず、扉を1枚だけ開けた会場で避難訓練を行い、扉付近の人流を計測しました。その後、これをシミュレーションで再現し、開いている扉の枚数によってどれだけ人流がスムーズになるのかを検討しました。

右の図が4枚すべての扉を開放した場合で、赤が混雑しているところ、緑がスムーズに流れているところを表しています。当たり前にも思えますが、扉4枚を開放した場合の方が人流がスムーズになることがシミュレーション上で示されました。これを踏まえて再度、実際の会場で扉4枚を開けて避難訓練を行ったところ、前回の避難訓練よりも短時間で避難が完了しました。このようにシミュレーションは、実際の検証が難しい事例に対して、様々な仮定を試すことができるという点で大きなアドバンテージがあるといえます。

 

2つ目は、スポーツイベント開催時の関係車両による交通への影響をシミュレーションを使って検証した研究です。過去にもサッカー代表戦の選手団バスが渋滞に巻き込まれるなど、大規模イベント時の交通混雑は問題視されてきました。そこで、どのくらい交通量を抑えれば円滑にイベントを回せるのかを交通シミュレーターで検討しました。ここでは実データとして、国交省が出している主要道路の交通量や時間帯別の交通量のデータを用いました。また、アルゴリズム処理を用いて実測値とシミュレーション値の誤差を最小化することで、再現性を確保しました。

交通シミュレータを用いたイベント関係車両による交通への影響検証

図版3 当日投影資料より転載

イベントにおける関係車両は、輸送バスやシャトルバス、会場に直接向かう乗用車やタクシーなどを含めて延べ1000台以上の車両が会場周辺の交通に集中することになります。そこで、イベントの時の交通総量が平常時と同じ場合と、平常時の8割に抑えた場合でどの程度混雑度が変わるのかをシミュレートしました。左の図が平常時と変わらない交通量、右の図が平常時の8割に抑えた場合です。赤が一般車両、緑が関係車両を表します。左は会場周辺で徐々に赤が増えて混雑していきますが、右では一定のスムーズさが保たれているのがシミュレーションから確認できました。

MASにおけるモデリング

図版4 当日投影資料より転載

こちらは、花火大会による駅周辺の混雑緩和のための人流シミュレーションです。ここでは、花火大会が終わってみんなが一斉に駅に向かったために混雑が発生していました。このようにエージェントの動線が決まっているものは、「ネットワークモデル」を用いてシミュレーションが可能です。一方で建物の構造が人流に影響を与えるような細かいケースでは、「二次元空間モデル」の使用が有効です。

 

シミュレーションにおける実データの価値

松島

こうしたモデリングやシミュレーションの再現性、妥当性の評価は、エージェントシミュレーションのもっとも重要なポイントです。全体を詳細に設計しすぎると、複雑すぎてシミュレーション結果の分析が難しくなってしまいます。そのため「どんな現象を確認・検証したいか」という目的に合わせて、構築するモデルのどこをシンプルにし、どこを詳細にするかといった調整が必要になります。

 

また、先ほど紹介した私の研究のように、実データを使うことでシミュレーションの再現性や妥当性を現実と比較することが可能になります。加えて、実データの分析から抽出された特徴を活用することで、再現性の高いシミュレーションを実現できる場合もあります。

 

例えば歩行者シミュレーションでは、実データの分析をもとに「ソーシャルフォースモデル」という、エージェントの移動速度を決める力学モデルを用いてシミュレーションを行う方法が知られています。他にも経済シミュレーションでは「スタイライズドファクト」という指標が用いられます。これは統計量の特徴を表すもので、ファットテール(価格の騰落率の分布が正規分布図と比べて両端で厚くなること)やボラティリティクラスタリング(価格変動が自己相関を持つこと)などが現実の市場で観測されています。つまり、これらの特徴がシミュレーション上のマクロな視点で表現できているかどうかで、シミュレーションの妥当性を評価するというわけです。

シミュレーションとデータサイエンス

図版5 当日投影資料より転載

では最後に、ここまで紹介してきた点から、シミュレーションとデータサイエンスの結びつきについて考えてみましょう。最近はセンサーの発達にともなって、様々なデータがどんどん蓄積されています。これらの社会応用としては、統計資料や機械学習への利用がすぐに思い浮かぶでしょう。しかし先ほど述べたように、こうした実データはシミュレーションにおけるモデリングやその妥当性、再現性の向上にも役立つんですね。ですから制度設計支援や行動最適化、戦略立案といったものをどのように進め、評価すべきかを考える上でも、シミュレーションとその手法は重要な示唆を与えてくれるのではないでしょうか。私の発表は以上とさせていただきます。

手をとりあう産業と研究

上島

複数のエージェントを設定する際に、メリハリをつけながら環境的な制約・条件を織り込むことがポイントになるのですね。昨今では「分析から予測へ」とも言われますが、統計解析や機械学習による分類・判定だけではなく、滅多に起きない事象を予測して対応策を立てたい企業が増えそうです。そこにマルチエージェント・シミュレーションの介入点があるのかなと。ちなみに、こうした共同研究というのは、どのような経緯で始まるのでしょうか。

 

松島

私に関していうと、これまでは自治体と関わることが多かったんですが、今の滋賀大学の研究センターでは企業との共同研も推進しています。そこでは企業側の解決したい課題を伺った上で、どこにシミュレーションが活用できるのかを一緒に探っていくというアプローチが多いです。逆に、データはあるけれど解決すべき課題はまだ見えないというケースもあって、これはなかなか難しいですね。

 

上島

「お肉はあるけど何が食べたいかわからない」みたいな話ですね。データの入手はどのように行われるのでしょうか。共同研究先の方にご提供いただくのか、それとも研究室内で集めるのか。イベント開催時の交通量の研究では、国交省が公表している道路交通センサスデータを利用したとおっしゃっていましたよね。

 

松島

そうですね、国交省のデータのように、一般に公開されているものをまずは利用することが多いです。イベントの交通シミュレーションのケースでは、信号機の下に取り付けられた交通量センサーのデータを県警からいただいたり、信号のタイミングの設定を教えていただいたりもしました。

 

上島

なるほど、さて北上さんにも伺いましょうか。松島さんの研究は、構造計画研究所での取り組みと様々な類似点・相違点があったかと思うのですが、いかがでしょうか。

 

北上靖大(株式会社構造計画研究所

ご紹介いただいた先進的な手法やデータを現実の課題に適用することで取り組みの幅を広げていきたいなと思いました。

 

上島

MASは他のデータ利用の分野と比べて産業分野と研究分野の連携が密で、羨ましいですね。松島さん、ありがとうございました。続きまして北上さん、お願いします。

 

(後編に続く)

 

編集:瀬下翔太

協力:森実南

企画・制作:「データ流通市場の歩き方」編集部

【イベントレポート】デジタル文化とワークプレイスの近未来──第4回データ流通市場の歩き方(後編)

第4回データ流通市場の歩き方セミナーバナー

 

ビジネス・学術それぞれの現場から、新しい「仕事場」のあり方を捉え直すミニシンポジウム「デジタル文化とワークプレイスの近未来──第4回データ流通市場の歩き方」が開かれました。慶應義塾大学総合政策学部准教授の清水たくみさんより、デジタル投資を有効活用する組織についてお話いただきました。

後編では、株式会社イトーキ 先端研究統括部統括部部長の大橋一広さんより、デジタル時代のワークプレイスと組織文化について語っていただきます。

(※記事中の役職名はセミナー開催当時のものです)

 

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『明日の「働く」を、デザインする。』

大橋一広(株式会社イトーキ 先端研究統括部部長)

イトーキの大橋と申します。どうぞよろしくお願いします。コロナ禍のワークスタイルの変化を受けて、オフィスのあり方や役割が激変していることも踏まえつつ、新たなオフィス像とワークプレイスの未来についてお話できたらと思います。

 

はじめに、イトーキについてご説明します。イトーキは1890年に創業し、130年経ちました。創業当時は「伊藤喜商店」として、発明品特許の商業向け商品、その後、オフィス家具の製造販売を行っていましたが、それから空間設計やデザインへと領域を拡げ、昨今ではICTをはじめとするオフィスワークに必要な情報デザインやワークスタイルのデザインを行っています。どの事業にも通底しているのがイトーキのミッションである『明日の「働く」を、デザインする。』ということです。オフィス家具の販売だけではなく、みなさまの次世代の働き方をデザインすることが私たちの生業です。

 

www.itoki.jp

 

私自身は、イトーキで博物館のような公共・文教施設の企画・内装のデザインを、10年程手がけてきました。それから世の中でデジタルとアナログの融合が叫ばれるようになって、いわゆるサイバーフィジカルの領域に足を踏み入れました。

 

近年では、物理的な空間のなかにいかにICTのようなテクノロジーを組み入れていくべきかを、多くの大学やメーカーと連携しながら研究・開発しています。とりわけ、VRのような近未来のコミュニケーションを、オフィスや会議室、文教施設の空間やデジタル画像・音響と連動させたり、物理空間のデータをIoTでデータ化してAIに分析させて現実にフィードバックしたりといった先端的な技術を用いた研究・開発が中心になってきています。

 

働き方とオフィスの変化

大橋

この分野の先進的な研究を進めると、オフィスを取り巻く外部環境の急激な変化を肌で感じます。もともと働き方改革の流れがあったのですが、さらに、ニューノーマルやウィズコロナの時代状況になったことで、テレワークをはじめとする新しい働き方が加速し、定着してきています。

 

オフィスの歴史を振り返ると、昭和や平成のオフィスは、個人がデスクワークをするための場所であったり、会社に所属する社員や関係者が話し合う会議室であったり、いずれもデスクと会議室が主役でした。また、オフィス内の情報通信の装置、モニタや電話の技術革新よって、オフィスも変化し、設計されました。

 

それがコロナ禍では、ワーク・フロム・ホームや在宅勤務が叫ばれるようになり、もちろん、イトーキも例外ではありません。緊急事態宣言下(2021年)の日本橋・東京本社では、800人のナレッジワーカーのうち、出社しているのはおおよそ30%以下です。しかし、同時に清水先生も言われていたように、GAFAをはじめとするアメリカの大手企業ではリターン・トゥ・オフィスの計画の動きもある。一方では完全リモートでいこうという会社もあれば、もう一方ではオフィスに集まってチームワークでいこうという会社もある。

 

今後、少なくともコロナ禍以前と同じように完全にオフィスに戻ることは想定できないと考えています。会社の業務や仕事の仕方に応じて、いかにパフォーマンスを最大化するかが大切だと思います。我々は、これからの働き方やオフィスのあり方を描くうえで、次の3点が重要だと考えています。

  1. 協働的な働き方クリエイティビティ(創造性)を高める
  2. AIを始めとするICTと人間が協調してプロダクティビティ(生産性)を上げる
  3. 個人と組織、社会の三方良しのウェルビーイングをつくっていく

これらを現実に適用していくと、ハイブリッドワークのような感じになってくるかなと思っています。

 

アクティビティ・ベースド・ワーキング(ABW)

大橋

こうしたハイブリッドワークを実現するためには、具体的にはどんな場所が望ましいのでしょうか。そこで我々が提唱しているのがアクティビティ・ベースド・ワーキングです。これは、働くという活動基点で仕事を行うという考え方です。働く人は、いわゆるオフィスだけではないですよね。家で、シェアオフィスで、あるいはサテライトオフィスで働く人もいます。これから必要になってくるオフィスは、働き方に応じて仕事ができるようにデザインしていく必要があるでしょう。

 

そのためには、分散と集合、個人ワークとグループワーク、そしてサイバーとフィジカルをうまく混ぜ合わせる必要があると考えています。たとえば、リモートワークが増えて働く時間も「分散」していくと、みんなが協調して働くことが難しくなります。リアルなオフィスに「集合」していれば、近くの同僚に、すぐ声をかけられるかもしれませんが、働く場所も時間もバラバラになっていくと、スケジュール調整ひとつとっても大変です。こういうマネジメントの領域にまで考えをめぐらせなければならない。

 

また、一部は分散オンラインで一部は集合対面で、同時に参加するというハイブリッドな状態が今後増えるはずです。そんな多様多拠点の会議様式があったとき、いまのテクノロジーでは、集合対面で会っている人は密にコミュニケーションが取れますが、反対にリモート・オンライン参加している人はどうしても疎外感をおぼえますよね。そこでどうしたら参加者全員が不公平でなく対等なコラボレーションが可能な環境をつくることができるでしょうか? こうした問いが、今後のオフィスデザインのなかでは非常に重要になります。

 

「分散」でも「集合」でも、「オンライン」でも「オフライン」でも、不公平なく、対等なコラボレーションができる環境。オンラインとオフラインをつなぎ、場所や距離、空間と時間を超えたオフィスの設計。それを実現するために、これからのオフィス投資はデジタル領域と接近していくと考えています。

 

コラボレーションするオフィス

上島邦彦(株式会社日本データ取引所)

物理的な場所としてのオフィスは、デスクワークや業務のためではなく、コラボレーションを育む役割を担う。そこで生まれた関係性が創造性につながり、企業の業績にも直結する。では、そのために必要な空間設計とはどのようなものでしょうか。

 

大橋

まず、さまざまなオフィスをクラウドを介して結びつけるデザインが必要です。たとえば、自宅でのホームオフィス、自社の支店・他拠点などのサテライトオフィス、異業種とコラボレーションできるシェアオフィス、そして鉄道や車など移動中のモビリティオフィス。みんなが集合する拠点のコア・オフィスは、これらと強く結びつき、オフィススタイルや場が拡張します。

 

次に、在宅ワークとオフィスワークのように、これまで相反するように思われてきた働き方を融合させることです。まさにハイブリッドワークですが、きちんと機能するためには、異なる働き方をする人同士がデジタルでつながっている必要があるし、チームのなかに関係性や信頼が育まれていなければなりません。集合するオフィスにはこうした取り組みを支援する役割があると思います。

 

最後に、新しいビジネスの展開を支えることです。コロナ禍やDXの動きなどから、個人も社会も価値観が大きく変わってきています。そこで企業は新しい分野で事業を考えることと、既存の事業領域での強みを深堀りすることの両方をやっていかないといけません。それを担う従業員のリスキルや、リカレント教育といった学び直しも必要です。オフィスは、その「学びと成長」に貢献し、ともにビジネスの拡大を図る存在にならなければならない。

 

以上の3点を意識しながら空間設計をしていくことが大切だと考えています。

 

創造性の高い組織に共通点はあるか

 

大橋:こうした考え方のもとになるのは、私自身が国際大学GLOCOMの研究員として研究参画した「創造性の高い組織に共通点はあるか(イトーキ・国際大学GLOCOM共同研究)」というリサーチです。アンケートやヒアリングによる調査を行うなかで、創造性の高い組織にみられる共通点が8つ見えてきました。

 

work-lab.itoki.jp

 

1つ目は「仕事を楽しんでいること」です。自分から仕事を楽しむ姿勢が、チームや組織全体の創造性を高めているということです。

2つ目は「プロジェクト化」です。プロジェクトチームを組み、みんなで仕事に取り組むことで創造性が高まります。

3つ目は「気軽に、細やかにコミュニケーションを図ること」です。あらゆるコミュニケーションが創造性に寄与しているということがみえてきました。

4番目は「本来の自分をさらけ出せるような雰囲気をつくること」です。いわゆる、心理的安全性の高いチーム。気兼ねなくお互いの感じていることを言い合えたり、批判も含めて考えを伝えられたりすることが創造性を高めています。

5番目は「コミュニケーションスタイルの違いを活かすこと」です。ダイバーシティにかかわることですが、たとえばジェンダーや世代によってもいろいろ特性があるでしょうし、そうした多様な人々がチームに加わることでコミュニケーションにも変化が起き、創造性につながるのです。

6番目は「リーダーが高い目標に取り組むこと」です。リーダーシップ論のなかでは、さまざまなスタイルのリーダー像が議論されていますが、この調査ではリーダー自身が高い目標に向かい、手本になるようなチャレンジをするところを見せているチームは、創造性が高いという結果が出ました。

最後に、7番目は「空間的な環境がいいこと」、8番目は「経営のビジョンと個人のビジョンをすり合わせていること」でした。

 

8つの共通点のなかでも興味深かったのは、3番目「気軽に、細やかに、コミュニケーションを図ること」です。どこがおもしろいかというと、チーム内のあらゆるコミュニケーションが創造性につながっているという結果が出たところにあります。この調査ではコミュニケーションを対面か非対面か、仕事に関係する話かプライベートに関係する話かという4つの事象に分けたのですが、どれも大切だったのです。

 

たとえば、対面かつ仕事に関係する話、つまりオフィスで仕事の話を多く気軽にしているチームはもちろん創造性に有効に作用するスコアが高かった。また、非対面かつプライベートに関係する話は、SNSなどで趣味や遊びのような直接仕事に結びつきそうにない話をしているチームもスコアが高かった。そして、さらに興味深いのは、対面でそういったプライベートな話をしているチームよりも、さらにスコアが高かったのです。個人的なことは意外とバーチャル上で話すほうがいいのかもしれないというわけです。

 

さきほどオフィスの設計においてリアルとバーチャルの融合が大切だという話をしましたが、この調査結果はその考え方とも関係しています。すべてを対面に戻すのではなく、さまざまなシーンや話の内容、文脈、相手によって柔軟にコミュニケーションのデザインを変えていくことが大切。そういうオフィスを構想していく必要があるなと改めて理解できました。

 

ハイブリッドワークを支え、文化資本を醸成する未来のオフィス

大橋

最後に、先ほど清水先生は、デジタル投資の文脈で、組織文化や文化資本の重要性について話されていましたよね。オフィスもまた、関係性を育み、文化を醸成する場所になっていくと思います。ただ業務をこなすのではなく、そこに行けば学び、成長できる。創造性が最大化されるような場所です。

 

たとえば、産学連携の拠点となる新しいワークプレイス、キャンパスオフィスや、オフィスのキャンパス化が進むのではないでしょうか。組織文化を考えるうえで、新しいスキルや態度を学び、育む機会は外せません。そうした成長の場は、大学とも相性がいいのではないかというわけです。大学と企業のオフィスが一体化していくというビジョンは、さらに具現化すると思っています。

 

上島

チームやスキル、ビジネスに変化が起こるとき、オフィスやワークプレイスも変化していきます。現代であれば、リアルかバーチャルかを問わず、あらゆるところで新しいものを学び、成長し、つくっていくことが求められている。未来のオフィスは、デジタルやクラウドとも深く結びつきながら、ハイブリッドワークや文化資本の醸成に貢献する場所でなくてはならないでしょう。

 

現場目線のハイブリッドワーク

上島

大橋さん、ありがとうございました。清水先生の研究とも近いお話だったのではないでしょうか。

 

清水たくみ(慶應義塾大学総合政策学部准教授

お話ありがとうございました、まさに密接にかかわっております。最後にお話いただいたハイブリッドワークの文化づくりというところは、研究だけでなく実践としても関心があります。というのも、私はいまリモートで、つまり対面を介さずに大学で研究室を運営しています。これが非常に難しく、単純にメンバーが仲良くなるだけでも一苦労ですし、さらに研究室という組織に文化やカラーをもたせていくとなると大変です。これまでいかに対面のインタラクションに依存して組織が運営されていたか身を持って体験しているところです。

 

そこで最初に伺ってみたいのは、大橋さんの経験のなかで、リモートワークやハイブリッドワーク、サイバーとフィジカルの組み合わせをうまく活用できている事例があるかということです。いかがでしょうか。

 

大橋

私自身はもちろん、チームも組織も、協業パートナーさんとのプロジェクトも、ハイブリッドワークやサイバーフィジカルなシステムの効果や優位性評価は、まだまだ模索中という感じです。まず現状としては、先ほどお話ししたようにイトーキでは30%オフィス出勤を実践中ですから、対面でのコミュニケーションがぐっと少なくなりました。そこでストレスを感じたり、チーム内のコミュニケーション不足であったりといった課題が出てきています。徐々に、これまで対面で育まれた関係性の貯金のようなものが崩されていく感覚もあります。ここ2年に入社した新入社員は早々にオンラインですから、先輩からOJTで体験を見て学ぶということも難しい。実証試験的に新しいスタイルをトライしながら、悩みながらハイブリッドワークを進めています。

 

現場で大切だなと思うのは、やはりラフなコミュニケーションです。カフェで休み時間にしていたような会話を朝の雑談チームオンラインでやったり、カジュアルなお昼のチャットをしたり。今回のこのイベントもかしこまった発表や会合というよりは、ラジオで話を聴くような感じで、と企画にあったので、いいなって思いました。そういうコミュニケーションが必要だと実感しますね。

 

大橋

それから、『時間』の概念、考え方をどのようにコントロールするかが、一層重要になると思います。オンラインになると、休憩や移動の時間がなくて、次から次へと会議ができてしまう。リラックスできる時間もなく、以前より仕事が複雑で過密になっています。マネジメント層が働き方の多様性を認め、それぞれが働きやすい環境をつくることが必要です。コミュニケーションの心理的安全性を守り、文化的な土壌を育てていくことが必要ですね。

 

上島

経営者から管理職、従業員までみんな悩んでいますよね。弊社もみんな勤勉なので、昔でいうタバコ休憩や化粧直しといった気を抜く時間がなくなっています。意識的に取り入れないと、組織として考え方が固くなってしまいますよね。

 

知の交流が事業変革に求められる

上島

大橋さんからは、学ぶ場と働く場が混ざり合うために、大学と企業がいかに対話できるかという問題提起もいただきました。清水先生、どういう仕組みがあると効率的でしょうか。

 

清水

今現在大学に所属する身として言うと、大学は情報発信に力を入れる必要があると思います。こういうイベントもそうですし、インターネット上での情報公開、プレスリリースを打つといったことなど。じつは大学には事業に直結する研究が数多く眠っていると思います。それをいかに外に開いていくかが鍵であり、ビジネスの現場にいる方々に大学でやっていることを少しでも認知・理解していただくこと/その仕組みの構築が重要だと考えています。

 

反対にビジネスサイドでは、アカデミックな知見をどう事業にいかすかという視点が大切だと思います。カナダの大学にいたころ、大学の知を事業につなげるアクションが日本よりかなり多いと感じました。大学の研究者はあくまで学術的・抽象的な知見を創出することに強みがあり、それを個別のケース(特定の会社や事業等)に適用してプロダクトや収益につなげることを得意としているわけではありません。当然そのような活用は実務家の皆さんが主戦場とするところであり、学術的に生まれた/生まれうる知見が自社にとってどのようなメリットがあるを判断し、活用できるようになると、それをしていない会社と大きな差別化をはかることができるようになると感じています。

 

大橋

共感します。私どもの会社もパートナー会社もそうだと思いますが、新規ビジネスをつくるうえで、既存の技術やスキルだけでは難しい。日本を代表するような大手メーカーであっても、事業ドメインや従業員の仕事や技術を大きく変えている時代ですからね。大学と企業が連携し、新しい知見が入ってくることが大切だと思います。たとえば、クロスアポイントメント制度のように、企業自体が大学の研究室に入っていくような人材交流や、産学共同研究からビジネス起業をしたり、副業・兼業化したり、大学の研究員や学生が企業の開発員になったりといった動きも大切だと思います。

 

上島

話は尽きませんが、時間がきてしまいました。最後に少しだけまとめをします。このイベントシリーズはデータ流通市場の歩き方と題していますが、今日のお話は情報システム部門やデータサイエンス部門に限られたものではなく、企業経営全体を視野にいれたものになりました。大橋さんの資料にあった分散と集中、同期と非同期が入り混じるハイブリッドワークを、具体的にどのように実現するかという問いは、単に組織のデジタル化を進めるだけでは不十分ですからね。

 

これに答えるうえで、清水先生のおっしゃった、ハードとソフトを分けすぎない「Sociomateriality」、それから大橋さんがおっしゃったリアルとバーチャルが溶け合う「Cyber-physical system」といったキーワードが鍵を握ると思います。さまざまなストレスに対してチームがどのように振る舞うかという「可塑性」や、さまざまな権限や資本、情報があちこちに複数存在する「多数性」が重要だと私も考えていたことがあって、清水先生がおっしゃったシェアード・リーダーシップは、まさにこれだと思いました。

 

今日の議論では、組織の「働き方」を変えていくうえで、経営改善からソフトローの調整、人事制度の変更、さらには組織と組織の連携といった複合的な施策が必要であり、データ活用もまたその手段のひとつだということが見えてきたと思います。おふたりとも、長時間ありがとうございました。

 

編集:瀬下翔太

協力:森実南

企画・制作:「データ流通市場の歩き方」編集部

【イベントレポート】デジタル文化とワークプレイスの近未来──第4回データ流通市場の歩き方(前編)

第4回データ流通市場の歩き方セミナーバナー

 

2021年8月24日におこなわれたJDEXオンラインセミナー「デジタル文化とワークプレイスの近未来──第4回データ流通市場の歩き方」。その模様を前後編に分けてお届けします。

 

コロナ禍における感染対策が追い風となって、多くの組織がICT投資に再注力しています。ところが、従来の企業文化が「見えない壁」となって、リモートワークが上手くいかない、スムーズな情報共有に苦戦している、コストに見合った効果を実感しにくいといった課題も耳にします。

しかし、デジタル文化の浸透が社会生活の前提となるなかで、組織の姿も変わっていくはず……。本イベントでは、そんな未来の組織のあり方を展望するとともに、現在の組織が抱える課題を解きほぐす糸口を探っていきます。情報システムやデータサイエンスといった専門分野に限らず、学術とビジネスの境界線を捉えなおす、新しい「仕事場」のあり方に興味がある方は、ぜひお読みください。

(※記事中の役職名はセミナー開催当時のものです)

 

 

上島邦彦(株式会社日本データ取引所)

これまでのデジタル投資といえば、情報システムや通信機器、生産設備などに予算を投じたり、データサイエンスやIoT、AIといったテーマの担当組織・人材に投資するといった「人・物への投資」が主流だったのではないでしょうか。製造機器に投資して稼働ログを取れるようにしたり、社用パソコンを高性能のものにしたり、いわゆる有形財にお金をかける例は多々あります。さらに、新型コロナウイルス感染症の流行以降は、リモートワークやペーパーレス化に伴って、デジタル環境やデータ製品といった無形財への投資、言い換えれば「文化への投資」が注目されています

 

そのような背景を受けて、今回は「デジタル文化とワークプレイスの近未来」について考えていきたいと思います。文化というと、遊びや娯楽のようなもの、生活習慣やライフスタイル、知識・教養といったものを思い浮かべる方が多いかもしれません。今日のイベントでは、文化という言葉をもう少し広い意味で捉えてみます。

 

たとえば、企業社会には組織文化とか、ソフトローという言葉があります。必ずしも法律やルールになっているわけではないけれども、その国や地域、会社内で暗黙の了解になっていて、多くの人が守っている慣習のようなものを指します。こうした文化は、組織のありようを大きく規定します。ワークプレイスひとつとっても、現地・現場に集まって仕事をする文化が好まれる会社もあれば、GitHubやBacklogのような業務支援ツール、ソーシャルメディアなどを活用する文化を好む会社もあります。オンラインでミーティングやカンファレンスをおこなうサービスも日常に根付いてきました。企業によっては、VRヘッドセットを装着して社内会議や教育研修を行うといった取り組みに挑戦しているところもあります。このように、組織がどのような文化的風土をもつかによって、働き方も変わってくるのです

 

そこで今日のイベントでは、オンラインとオフライン、それぞれが融合した現代的なワークプレイスのなかで、組織のデジタル文化がどのように変わっていくのか考えていきたいと思います。お迎えするゲストは、まず、慶應義塾大学総合政策学部准教授の清水たくみ様です。本日はよろしくお願いいたします。

 

清水

よろしくお願いいたします。

 

上島

次に、株式会社イトーキ先端研究統括部長の大橋一広様です。よろしくお願いいたします。

 

大橋

よろしくお願いいたします。

 

上島

それぞれにお話を伺っていきますが、まずは清水先生に話題提供いただけたらと思います。

デジタル時代に求められる組織形態を探究する

清水たくみ(慶應義塾大学総合政策学部准教授)

はじめに、自分のバックグラウンドについて少しお話したいと思います。私は大学を卒業したあとに経営コンサルタントとして働き、それからまた大学院に戻って、アカデミックな観点から経営やビジネス、組織について研究をはじめました。

 

現在では、「未来の組織を探求する」というテーマを研究室全体で掲げています。たとえば、リモートワークとリアルワークを組み合わせたハイブリッドワークのあり方や、テクノロジーが可能にする未来の働き方といったものです。VRやARといった技術を使うと、製造現場や販売現場はどのように変化していくのか、またそれら現場で働き方はどのように変化していくのか、職場に導入されるデジタルプラットフォームやオンラインのコミュニティで人々はどのようにコミュニケーションを取るのか。こういった、テクノロジーと組織の共進化・関係性を中心に研究しています。

 

それから最近では、いわゆるダイバーシティインクルージョンといった社会的な変化、またデータアナリティクスといった領域の研究にも取り組んでいます。これらテーマにご関心のある方はぜひ研究室までご連絡いただけたら嬉しいです。

 

takumilab.sfc.keio.ac.jp

結局、ICT投資と企業業績にはどのような関係があるのか?

清水

今日みなさんと議論したいのは「デジタル時代に求められる組織の形態とはどういうものなのか」という問いです。この問いは、私が専攻する経営情報学のなかではメインストリームの関心といっていいものです。

 

とりわけ、「いわゆるデジタル投資やICT投資と呼ばれるような予算が、組織にどのような影響を与えているか、典型的には企業の業績にどのように結びついているか」という問いは、何十年にもわたって多くの研究が蓄積されています。ある国全体や産業全体といったマクロのレベルで見れば、当然のことながら、ICT投資は組織のパフォーマンスや企業の業績に対してプラスの影響を与えるということが明らかになっています。

 

ところが、ひとつひとつの企業や組織に着目すると、必ずしも投資が成果に結びついてるとは言えません。ICT投資は、全体として見れば効果はあるけれども、個別に見ていくとうまくいっているところとそうでないところがあるというわけです。そこで、どういった要因がこのばらつきを生んでいるのかという問いが、経営情報学では議論されています。

 

ここで実際のデータを少し見てみましょう。総務省OECDの統計を元に示したデータとして、世界各国のICT投資が近年どのように変化しているかを示したものがあります。これをみると、1995年を基準として、アメリカやフランスは3倍くらい増えていますが、日本ではほとんど増えていません。また、最近ボストンコンサルティンググループがグローバルで実施したスタディによれば、近年のDXブームのなかでも、日本企業は世界各国と比べてDXがうまくいっているといえる企業の割合が非常に少ないという分析をしています。つまり、日本はICT投資そのものの金額が少なく、また、ほかの国々に比べて投資をうまくいかしていないということです。先ほどお話ししたように、ICT投資を成果につなげられる組織と、そうでない組織があるということでもあります。

 

www.soumu.go.jp

 

デジタルトランスフォーメーションに関するグローバル調査2020(ボストン・コンサルティング・グループ)

 

このような違いが生じるひとつの要因として、組織がただICT投資をするだけではなく、お金を投じたインフラやプラットフォームを実際に活用しているかという基本的な問題があります。当然のことではありますが、この活用度合いというものは成果が出るか否かに非常に強く影響を与えるという研究結果が出てきています。当たり前だとは言っても、現場に目を向ければ簡単ではないことがわかるでしょう。デジタルツールを導入したからといって、現場でなかなか使われなかったり、使い始めてもうまくマネジメントできなかったりすることはままあるからです。

 

また、デジタル投資をパフォーマンスにつなげるためには、組織の敏捷性(agility)が深く関わっているという研究もあります。敏捷性とは、組織がフレキシブルに動けたり、いろいろなことをスピーディーに試せたりする度合いのことです。ほかにも、学習が促進されるような組織になっているか、新しいデジタルツールを使った際にそこで得られた知見をスピーディにチーム内で共有できる組織になっているか、個別のチームや部署のデジタル導入が全社的なデジタル戦略と整合的になっているかといった点も、ICT投資がパフォーマンスに結びつくかを左右する大きな要因であると言われています。

 

このようなデジタル投資をパフォーマンスにつなげるさまざまな要因のうち、今日は1. 組織文化2. リーダーシップのふたつについて、これまでわかってきている知見を詳しくお話していきたいと思います。

 

ICT投資を活かす組織文化

清水

まず、組織文化についてです。組織にデジタル文化を醸成することの重要性が明らかになりつつあります。たとえば、早稲田大学の平野雅章先生との共同研究の中では、デジタル活用の認識の感度が高い組織は、ICT投資をうまく業績につなげられているという結果が出てきています。反対に、そういった感度の低い組織は、あんまり業績があがっていません。これはひとつの例ですが、メンバーのデジタル活用への理解度によって、ICT投資のインパクトの大小が変わると言えるかもしれません。

 

また、2万人ほどのグローバルなビジネスエグゼクティブに対するサーベイ調査の結果によれば、多くの会社でデジタルが自分の事業や業界に破壊的な影響を与えてしまうという認識をもっています。60%以上のエグゼクティブが「デジタルによって大規模に産業が破壊される」と答えており、それは中規模な破壊まで含めると80%以上にものぼります。最近の例で言えば、Uberによってタクシー業界が大きく変化したように、デジタルによって産業が破壊的な影響を受ける例をみなさんもイメージできるのではないでしょうか。

 

他方で、デジタルが与える破壊的な影響に対して準備ができているかという質問に対して、準備できていると答えたエグゼクティブは40%程度に留まっています。つまり、多くの企業はデジタル技術によって破壊的な影響を受けると認識しているにもかかわらず、組織的な体制が整っているところは非常に少ないというわけです。こういった状況を踏まえると、デジタル環境に適応するためには、ただ投資をしたりプラットフォームやインフラを導入したりするだけではなく、組織文化や人材のトレーニング、組織構造を調整したり統合したりするといった取り組みを、会社全体の成長戦略や事業環境とうまく連動させながらデザインしていくことが重要だと考えられています。

 

それから、リスクを許容するような組織風土が重要です。昨今では非常に有名になった概念ですが、心理的安全性という言葉があります。デジタル活用においても、職場で恐れずにリスクを取れる環境があることは非常に重要です。そういった環境を土台にして、実験的に新しいことやリスクある取り組みを試していける風土を作ること、さらにはそれら実験がうまくいっているかどうかをモニターしたり、そのために必要な新しいサービスや取り組みに資源を投入したりすることが必要だと考えられています。

 

加えて、個々の人材に対してデジタルスキルの育成機会を提供したり、技術的なスキルとソフトスキルをバランスさせる経験を積ませるなどして、デジタル人材を育成・活用できる組織のデザインを行うことが重要です。こうした実験・学習する組織においては、先ほどご紹介したagility(敏捷性)というキーワードが重要です。たとえば、縦割りの部門ごとではなく、そこを横断する組織をつくり、流動的にチームを組み替えていくことが大切なのです。

 

ICT投資を活かすリーダーシップ

清水

これまで組織レベルの話をしてきましたが、個人レベルの話にも少し触れたいと思います。デジタル投資やDXの成功につなげるためには、リーダーが事業環境をどのように認識し、リーダーシップをとるべきでしょうか。

 

これまでのトラディショナルな事業環境とデジタル環境との大きな違いはどこにあるかという調査に対して、グローバル企業の経営者は「事業を進めるペース」や「組織に必要な文化とマインドセット」、「柔軟なワークプレイスの用意」等がこれまでとは異なると回答しています。

 

この調査はコロナ禍以前におこなわれたもので、現在ではこれらの重要性がさらに高まっていると思います。オンラインとオフラインを統合するハイブリッドワークに代表されるように、フレキシブルなワークプレイスの重要性はさらに高まっているからです。GAFAをはじめとする先端的なICTに携わる企業ですら、どれくらいリモートワークを許可し、どれくらい実際にオフィスで働くことを要求するべきなのか結論が出ていません。一度こうするというポリシーを出してすぐ撤回するというような状況もあり、模索が続いています。週のなかで分けるのではなく、部署や人ごとにリモートワークにするとか、仕事の内容や機能ごとに組み替えるといった考え方もあるでしょう。いずれにしても、事業環境の変化にフレキシブルに対応できる働き方や職場の設計が急務になってきているのです

 

経営者は、デジタル環境のなかで他社と競争していくうえで、能動的に変化を仕掛けていくためにどうすればいいか頭を悩ませています。単純な技術の理解度以上に、リスクを取り、不確実かつコンスタントな変化にどう対応していけるかが重要だと考えているのです。リーダー自身が技術に対する理解を持たなければ、DXやハイブリッドワークはもちろんうまくいきません。しかし、それ一本槍ではなく、技術や社会の変化を捉えたうえで、どのように会社を変えていきたいのか、組織のビジョンや全体としての組織の流れを見通す力、そのうえで変革を進めていく力がリーダーにとって重要だと考えられています。技術的な意味でのデジタル活用と、経営的な、マネジメント的な、組織的な、ソーシャル的な意味でのデジタル活用との二軸こそが組織や働き方の今後を考えるうえで重要になると思います。

 

鍵を握る「Sociomateriality(ソシオマテリアリティ)」

清水

最後に、私の研究分野でキーコンセプトになってきている「Sociomateriality」という概念を紹介したいと思います。これはざっくり言うと、socio=ソーシャルなもの(人間や組織、社会的な関係性など)と、material=物質的なもの(技術や物理的資源など)を両立するというアイデアです。この考え方の重要な点は、両者が一体的なものであって、双方向に影響を与え合うという点です。たとえば、リモートワークを実現する技術や設備(material)を導入すると、組織に新しいインタラクションやダイナミズム(social)が生まれてくる。さらには新しく生まれた組織メンバーのダイナミズム(social)が、組織に必要となる技術的仕組み(material)をさらに明確化する。そうした連関を捉えていくことがSociomaterialityを基盤とした考え方です。

 

これは先ほどお話ししたリーダーの役割とも似ています。人間関係や組織に関するsocialなスキルも持ちつつ、デジタルに関するmaterialなスキルも持つ。この二軸をもってハイブリッドに事業を推進していくことが今後重要になってくるのではないかと思います。私からの話題提供は以上となります、ありがとうございました。

 

【関連論文・ウェブサイト】

10 Sociomateriality: Challenging the Separation of Technology, Work and Organization(Wanda J. Orlikowski and Susan V. Scott)

 

en.wikipedia.org

シェアード・リーダーシップの価値

上島

大変興味深いですね。組織には「速さ」や「しなやかさ」「余裕」といったものが、ますます求められるであろうということですよね。そのためには、デジタル文化に対する投資がますます求められていると。ハードな組織をソフトな組織に変えていくうえで、企業のエグゼクティブやリーダーだけでなく、いち従業員や管理職の視点では、どのような働き方が求められるでしょうか。

 

清水

ありがとうございます。今回の話題提供では、トップマネジメント的な意味でのリーダーシップに焦点を当てました。その一方で、いまシェアード・リーダーシップと呼ばれるような、組織の成員それぞれがリーダーシップをシェアすることの重要性が高まってきていると言われます。たとえば、企業の変化のスピードがこれまでになく速まっていくなかで、トップひとりの頭ですべてを察知し、方向性を考えていくことは難しい。そこで、個別の部門やセクション、現場で変化に素早く対応したり、新しい実験を行ったりするというような動きが頻発していくことが、組織として理想的な状態だと考えられているのです。そのためには、いわゆる「長」のつく人たちだけではなくても、新しい取り組みを始めることができるような土台を組織的に培っていく必要があると考えています。そのためには、末端のメンバーであっても新規事業を提案して始められるような仕組みをつくるという制度的なアプローチも考えられますし、それを進めやすくするようなITインフラをつくるという技術的なアプローチも考えられます。あるいは、個々人がリスクを取りやすくなるような働きかけや動機づけ、職場の雰囲気といったウェットなアプローチも求められてくるだろうと思います。

 

上島

現場担当者が自分の持ち場を自分で工夫したり、改善していく、そのための裁量があるべきといったことですね。トヨタ生産方式でいう「カイゼン」を思い出します。

 

リーダー自身がデジタル文化に触れる

上島

大橋さんは清水さんのお話について、どのように感じられましたか?

 

大橋

ありがとうございます、大変興味深いお話でした。私が働いているイトーキは、オフィスをデザインし提案販売する会社ですから、非常に共感して聞いていました。オフィスは環境設備のための必要経費であるという従来的な考え方から、オフィスを変えることは企業の業績や、社員の活性化、変革のために必要な投資であるという考え方に変わってきています。そして、オフィスへの投資のど真ん中にデジタルというインフラがある。ですから、自分たちの事業を考えるうえでも、清水先生のお話は参考になりました。

 

ひとつ質問してみたいのは、オフィス投資のご提案を通じて、お客様のデジタル文化を深め、事業成長につなげていくうえで、どのような人材が向いているのかということです。そうしたプロジェクトを進めるうえでは、イトーキ側もクライアント側もプロジェクトリーダーが立つことになります。そういったリーダーに求められるスキルとして、先を見通す力やデジタル感度が高いことは理解できるのですが、それがいつも情報システム部門の方だけで良いかというと難しい。実際の現場では、どういった部署や人材によるプロジェクトが良いのかと思いまして、どうでしょうか?

 

清水

ありがとうございます、大変重要な問題提起をいただいたと思います。実際のところ誰が推進するのかと言われると、まさにおっしゃっていただいたように情報システム部門なのかということになりますけれども、必ずしもそれだけではないところがあります。DXの潮流はもちろん、それ以外のデジタル投資においても、既存の仕組みを単にデジタル化するだけではなく、デジタル化によってビジネスモデルそのものが変わったり、提供価値自体がまったく別物になったりすることが重要だと考えられています。事実、DXの本来の意味である「デジタル化による事業や組織の変革」を達成できた組織こそが圧倒的に伸びています。

 

そうなると、実際に事業を進める事業部門こそがデジタル導入を決断する必要があると考えています。情報システムを統括する部門だけではなく、事業の担当者や責任者がデジタル技術であったり、新しいアプリケーションやプラットフォームであったりを自ら導入し、事業を変革していく。そういう使い方をしてこそ、初めてデジタル投資が活きてくると思います。つまり、最初にテクノロジーがあってその使い方をどうするか考えるのではなく、むしろ事業のビジョンがあってそれにあってテクノロジーの使い方を考えるという順番が大事になります。この両方を事業部側がもっていればいいですが、当然ながらそういう組織や人材がいつもいるわけではありません。そこでコラボレーションの重要性が出てくるわけですけれども、やはり柱となるのは事業部側でしょう。

 

大橋

ありがとうございます、大変参考になります。

 

上島

そうなると、事業部の柱となる方がデジタル分野に先見性を持つ必要がありますよね。そのためにはどういった意識をもったり、アンテナを張ったりするべきでしょうか。

 

清水

私の考えでは、事業部のリーダーや担当者自身がデジタルの動向に触れることが非常に重要だと思います。全員がコンピューターサイエンスの学位を取る必要はありませんが、誰かに任せず自分で技術動向をつかむ必要はあると思います。いまシリコンバレーで大きくなっている企業を見ても、Googleの検索システムをつくったのはCEO本人ですし、Facebookも当然そうです。

 

テスラのイーロン・マスクであっても、自ら電気自動車をつくれるわけではないけれども、EV車をつくるうえでコストダウンできるのはどの部分なのかを自ら考えることができます。生産面のスペシャリストは別にいるとしても、本質的なところは自らコントロールしているのです。彼は「私の頭のなかでは、この部分はコストダウンできるはずだ、なぜできないのか?」という質問ができるくらいには、テクノロジーに精通していると言われます。事業を進めるうえでは、さまざまな分野の技術的なエキスパートの知を結集する必要があります。そのトップに立ち、グランドデザインを描くリーダーには、必ず技術的な知見が求められるだろうと考えています。

 

上島

デジタル文化の担い手、そのクリエイターにはならずとも、良き理解者となり、土地勘がわかるようになる。そのために、日常的にデジタル文化に触れておくとよい、ということですね。刺激的なご回答、ありがとうございました。

 

(後編に続く)

 

編集:瀬下翔太

協力:森実南

企画・制作:「データ流通市場の歩き方」編集部

 

【1/18オンラインセミナー開催】地域経済の未来をデータで読み解く!――第6回データ流通市場の歩き方

第6回セミナーバナー

 

新年あけましておめでとうございます。日本データ取引所から、オンラインセミナーのご案内です。

 

新型コロナウイルス感染症による社会的な変動は経済に大きな影響を与えました。飲食業や観光業といったインバウンド消費の落ち込みや雇用対策など、地域経済の活性化が急がれます。

 

また近年、テキストマイニングを用いて地方銀行のデータを分析する試みがなされています。地域企業のデータを数理モデルで分析することで、足下の変化や景況感を読み解くことができるようになってきています。

 

アカデミアとビジネス両方の現場から、データビジネスやデジタル文化について議論してきた連続シンポジウム「データ流通市場の歩き方」。第6回となる今回は、株式会社みらいおきなわにて地域のベンチャーやスタートアップの支援に尽力されている砂川恵太氏と、自然言語処理がご専門で、同銀行のデータを用いて地域の景況感を分析した東京大学の坂地泰紀氏をお迎えし、データを活かして地域経済を読み解く方法や、そのビジネスへの展開を語り合います。

 

テキストマイニング自然言語処理にご興味がある方はもちろん、地方活性化や景況分析に携わる方など、幅広い方のご参加をお待ちしております。

 

以下のフォームよりお申し込みください。セミナーは終了いたしました。

開催概要

日時:2022年1月18日(火)17:30-19:00

視聴方法 :Zoomウェビナーでのオンライン配信(※お申込完了後、会場URLをZoomの自動配信メールで送ります。)

参加費 :無料

 

プログラム概要

【セッション1】

話題提供:坂地泰紀氏(東京大学大学院工学系研究科 システム創成学専攻 特任講師

テキストマイニングを用いた研究紹介

景気ウォッチャー調査の事例と社会応用

 

【セッション2】

話題提供:砂川恵太氏(株式会社みらいおきなわ 企画コンサルティング部 部長)

・地方の景況感の実態

・地域経済・経営におけるデータ活用

 

【セッション3】

座談:データで紐解く地域経済の未来

・金融分野におけるデータ活用のこれから

・産学連携による経済データの共有

(進行:株式会社日本データ取引所 上島)

 

登壇者プロフィール

東大・坂地先生お写真

坂地泰紀氏(東京大学大学院工学系研究科 システム創成学専攻 特任講師)

専門は自然言語処理で、主にテキストマイニングに関する研究に従事。IEEE、電子情報通信学会、言語処理学会人工知能学会会員。
2012年3月に豊橋技術科学大学大学院工学研究科博士課程修了:博士(工学)。
同年4月より2013年9月まで株式会社ドワンゴ勤務。
2013年9月より成蹊大学理工学部 助教
2017年4月より東京大学大学院工学系研究科 助教
2018年4月より現職。

 

砂川氏お写真

砂川恵太氏(株式会社みらいおきなわ 企画コンサルティング部 部長)

2005年に沖縄銀行入行。営業店にて法人営業を経験後、本部の審査部門にて信用リスク管理、経営支援システムの導入、人材育成等を担当。その後法人事業部推進部署にて、事業性評価関連企画や地域活性化支援に従事。2021年地域商社みらいおきなわの設立を担当し設立後出向中。中小企業診断士、1級ファイナンシャルプランニング技能士

 

Jdex上島プロフィール画像

上島邦彦(株式会社日本データ取引所)

創業メンバーとして事業企画に従事。データマーケットプレイス企画推進、データ戦略・実践コンサルティングに携わる。「データ流通市場の歩き方」編集部員。研究データ利活用協議会「データ共有・公開制度検討部会」委員。データ社会推進協議会技術基準検討委員会「データ品質TG」副主査。

 

以下のフォームよりお申し込みください。

セミナーお申し込みフォーム

 

みなさまのご参加をお待ちしております!

【お知らせ】コロナ禍の社会変化に関する有料データを募集します! 「新型コロナウイルス感染症ファクトシート」バージョン2も無料公開。

 株式会社日本データ取引所(本社:東京都渋谷区、代表取締役:森田直一、以下当社)は、データマーケットプレイス「JDEX®」(読み:ジェイデックス)の製品ラインナップを充実させるべく、新型コロナウイルス感染症ファクトシート」に収録する有料データの公募を行います。多様なデータをコロナ禍が日本社会に与えた影響の理解に役立てるため、ぜひ本企画にご参加ください。

 

データ募集のメインビジュアル

 

新型コロナウイルス感染症ファクトシート」は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の蔓延による日本社会の変化を要約した資料です。グラフと年表形式で一覧した本紙(PDF)と、元データや参考文献をまとめたデータセットExcel)で構成されます。

 このたびバージョン2を制作し、2021年3月から8月末までの情勢を追加しました。2019年末の中国武漢市内での症例報告から、第5波の感染拡大までの時系列推移を概観できます。

 2021年6月に公開したバージョン1は、様々な業界で反響を呼び、ビジネスや教育にご活用いただきました。

 今回主に募集するのは、経済動向に関するデータ、交通・人流に関するデータ、消費生活に関するデータ、文化芸術・レジャーに関するデータの4つです。これらをオープンデータともに分析・グラフ化し、コロナ禍の事後検証と将来見通しの把握に役立ててまいります。

 データ提供可能な方は、お気軽にお問い合わせください。幅広い組織からのご提案をお待ちしています。

j-dex.co.jp

企画背景

 2021年春から秋にかけて、日本ではワクチン接種や抗体医薬の特例承認が進む一方、デルタ株を中心とした変異株の感染が大きく広がりました。東京オリンピックパラリンピックは無観客で開催され、医療逼迫に伴い、重症者以外は自宅療養を余儀なくされました。

 オンラインカルチャーの浸透が進み、大規模なスポーツ・音楽イベントも再開した一方で、外出・移動の自粛要請や商業施設の休業・時短営業は続き、飲食店には酒類提供の禁止が呼びかけられました。

 春先には日経平均株価が30年ぶりに3万円台へ値上がりしたものの、夏にかけて個人消費は再び低迷。学生や非正規雇用者の困窮が広がり、とりわけ女性の失業・休職が増えています。国際的な物流コスト高や半導体の需給ひっ迫により、自動車工場の生産停止を始めとして、幅広い産業への影響が続きます。

データの募集

 当社は、新型コロナウイルス感染症に関するデータ・ライブラリの構築に向けて、関連するデータ製品のキュレーション活動に取り組んでいます。欧米圏ではOur World in Data 「Coronavirus Pandemic」やDawex「COVID-19 Data Exchange Initiative」といった事例があります。

 すでに400種ほどのデータを発見し、「おすすめデータ」としてJDEX会員のみなさまに無料でご紹介しています。業界・業種や有料・無料を問わず、今後もより多くの方へデータ提供・利用を呼びかけ、日本社会が後世に残すべきアーカイヴ構築の第一歩となることを目指しています。

募集概要

【対象期間】
2019年12月1日以降(時間分解能は、時間別から年別まで不問です)

【対象地域】
日本

【言語】
日本語

【データの種類】

経済動向に関するデータ

  • 国内株式市場における主要指標の推移
  • 産業別主要企業の売上増減率、創廃業数
  • 自動車関連製品・サービスの生産・販売・修理台数
  • 建築・工事費に関する指数

交通・人流に関するデータ

  • 鉄道乗降客数
  • 飛行機乗降客数
  • 主要駅・観光地周辺の滞在人口(昼夜)
  • 自動車交通量

消費生活に関するデータ

  • クレジットカード、キャッシュレスアプリ等の利用頻度
  • 家計支出のカテゴリ別比率、支出金額
  • 外食/中食/内食の支出金額・喫食者数/献立変化
  • 家具・家電・IT機器の購買金額
  • 在宅行動の変化を示唆する指標(室内家電の使用率、電力使用量)
  • 国内通販および越境EC利用金額(カテゴリ別)

文化芸術/レジャーに関するデータ

  • ライブイベントの開催数(中止数)
  • ファッション・美容用品の購買金額
  • スマホアプリ使用率(主要アプリ又はカテゴリ別)
  • 主要観光地の宿泊施設利用率
  • 主要レジャー施設集客人数・比率
  • VRバイス及び主要メタバースの利用者数

上記に当てはまらなくとも、提供可能なデータをお持ちの方は、ぜひお問い合わせください。

ファクトシートについて

新型コロナウイルス感染症ファクトシート」は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のまん延による日本社会の変化を要約したデータ製品です。グラフと年表形式で時系列推移を一覧した本紙(PDF)と、元データや参考文献をまとめたデータセットExcel)で構成されます。

収録内容 

 本紙(PDF)に掲載されているグラフには、日本と世界の新規感染者数と、日本のワクチン接種率、日本語のニュース記事・インターネット検索・SNS投稿の件数推移を指数で表しました。また「日本のできごと年表」には、医療・経済・生活の3区分で、日本国内の主要なできごとを一覧にしています。


 データセットExcel)には、本紙の制作の元となったデータを収録しています。グラフに用いた時系列の数値、できごと年表に用いたニュース源、参考文献・データソースで構成されています。参考文献・データソースは、シートの制作過程で見つかった情報源です。国内外のオープンデータと民間のレポート・調査結果で構成されており、JDEXおすすめデータとして当社のTwitterでも紹介しています。

twitter.com

ファクトシートの一部。グラフと年表でコロナ禍のできごとが概観できる。

ファクトシートの一部。グラフと年表でコロナ禍のできごとが概観できる。

バージョン2について

 バージョン2では、できごと年表に2021年4月から8月までのトピックを、グラフにワクチン接種率を追加し、第4波・第5波の社会の動きが概観できます。

入手・活用方法

 データマーケットプレイス「JDEX」の会員であればどなたでも無料でダウンロードできます。

 

ダウンロードサイト

www.jdex.jp

 

 より多くの方にお使いいただけるよう、本シートの利用条件はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス「表示 – 非営利 – 継承 4.0 国際」(CC BY-NC-SA 4.0)としています。社内会議、学術研究、政策立案、勉強会などにぜひご活用ください。

JDEXについて

 JDEXは、データを安心・安全に売買できる会員制のデータマーケットプレイスです。欲しいデータを探したり、保有するデータを簡単に紹介・出品でき、ビジネスや研究のデータ活用に役立ちます。本プロジェクトは兼松株式会社、株式会社日本データ取引所、Dawex Systems, SAS(フランス・リヨン)が共同で取り組んでいます。

 2020年11月のサービス開始以来、会員数は国内外の組織80以上にのぼります。会員の業種は一般企業から研究機関、行政組織までさまざまです。

 会員登録は無料で、有料会員になると、回数無制限のデータ取引、複数組織によるデータの共同利用といったすべての機能が使えます。1,000種類以上のおすすめデータ紹介も受けられます。

会社概要

株式会社日本データ取引所(Japan Data Exchange Inc. 通称:Jdex)
〒150-0033 東京都渋谷区猿楽町9-8 URBANPARK代官山II
代表取締役:森田直一
コーポレートサイト:https://j-dex.co.jp/

 

2016年に創業。「日本のデータを民主化する」を目標に、企業のデータ活用に関するコンサルティングや、データ活用のためのガイドライン策定等に取り組んでいます。2019年度より兼松株式会社と資本業務提携し、Dawex Systems, SASと3社共同で「プロジェクトJDEX」を始動。Dawex Systemsは、世界各国のあらゆる組織における顧客ブランドのデータハブであり、データマーケットプレイスで活用される技術を持つ企業です。日本のデータ流通市場の形成と、デジタル・トランスフォーメーション(DX)に資するため、データマーケットプレイス「JDEX」の運営に共同で取り組んでいます。

お問い合わせ先

担当:小澤
E-mail:info[at]j-dex.co.jp