データ流通市場の歩き方

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【イベントレポート】デジタル文化とワークプレイスの近未来──第4回データ流通市場の歩き方(前編)

第4回データ流通市場の歩き方セミナーバナー

 

2021年8月24日におこなわれたJDEXオンラインセミナー「デジタル文化とワークプレイスの近未来──第4回データ流通市場の歩き方」。その模様を前後編に分けてお届けします。

 

コロナ禍における感染対策が追い風となって、多くの組織がICT投資に再注力しています。ところが、従来の企業文化が「見えない壁」となって、リモートワークが上手くいかない、スムーズな情報共有に苦戦している、コストに見合った効果を実感しにくいといった課題も耳にします。

しかし、デジタル文化の浸透が社会生活の前提となるなかで、組織の姿も変わっていくはず……。本イベントでは、そんな未来の組織のあり方を展望するとともに、現在の組織が抱える課題を解きほぐす糸口を探っていきます。情報システムやデータサイエンスといった専門分野に限らず、学術とビジネスの境界線を捉えなおす、新しい「仕事場」のあり方に興味がある方は、ぜひお読みください。

(※記事中の役職名はセミナー開催当時のものです)

 

 

上島邦彦(株式会社日本データ取引所)

これまでのデジタル投資といえば、情報システムや通信機器、生産設備などに予算を投じたり、データサイエンスやIoT、AIといったテーマの担当組織・人材に投資するといった「人・物への投資」が主流だったのではないでしょうか。製造機器に投資して稼働ログを取れるようにしたり、社用パソコンを高性能のものにしたり、いわゆる有形財にお金をかける例は多々あります。さらに、新型コロナウイルス感染症の流行以降は、リモートワークやペーパーレス化に伴って、デジタル環境やデータ製品といった無形財への投資、言い換えれば「文化への投資」が注目されています

 

そのような背景を受けて、今回は「デジタル文化とワークプレイスの近未来」について考えていきたいと思います。文化というと、遊びや娯楽のようなもの、生活習慣やライフスタイル、知識・教養といったものを思い浮かべる方が多いかもしれません。今日のイベントでは、文化という言葉をもう少し広い意味で捉えてみます。

 

たとえば、企業社会には組織文化とか、ソフトローという言葉があります。必ずしも法律やルールになっているわけではないけれども、その国や地域、会社内で暗黙の了解になっていて、多くの人が守っている慣習のようなものを指します。こうした文化は、組織のありようを大きく規定します。ワークプレイスひとつとっても、現地・現場に集まって仕事をする文化が好まれる会社もあれば、GitHubやBacklogのような業務支援ツール、ソーシャルメディアなどを活用する文化を好む会社もあります。オンラインでミーティングやカンファレンスをおこなうサービスも日常に根付いてきました。企業によっては、VRヘッドセットを装着して社内会議や教育研修を行うといった取り組みに挑戦しているところもあります。このように、組織がどのような文化的風土をもつかによって、働き方も変わってくるのです

 

そこで今日のイベントでは、オンラインとオフライン、それぞれが融合した現代的なワークプレイスのなかで、組織のデジタル文化がどのように変わっていくのか考えていきたいと思います。お迎えするゲストは、まず、慶應義塾大学総合政策学部准教授の清水たくみ様です。本日はよろしくお願いいたします。

 

清水

よろしくお願いいたします。

 

上島

次に、株式会社イトーキ先端研究統括部長の大橋一広様です。よろしくお願いいたします。

 

大橋

よろしくお願いいたします。

 

上島

それぞれにお話を伺っていきますが、まずは清水先生に話題提供いただけたらと思います。

デジタル時代に求められる組織形態を探究する

清水たくみ(慶應義塾大学総合政策学部准教授)

はじめに、自分のバックグラウンドについて少しお話したいと思います。私は大学を卒業したあとに経営コンサルタントとして働き、それからまた大学院に戻って、アカデミックな観点から経営やビジネス、組織について研究をはじめました。

 

現在では、「未来の組織を探求する」というテーマを研究室全体で掲げています。たとえば、リモートワークとリアルワークを組み合わせたハイブリッドワークのあり方や、テクノロジーが可能にする未来の働き方といったものです。VRやARといった技術を使うと、製造現場や販売現場はどのように変化していくのか、またそれら現場で働き方はどのように変化していくのか、職場に導入されるデジタルプラットフォームやオンラインのコミュニティで人々はどのようにコミュニケーションを取るのか。こういった、テクノロジーと組織の共進化・関係性を中心に研究しています。

 

それから最近では、いわゆるダイバーシティインクルージョンといった社会的な変化、またデータアナリティクスといった領域の研究にも取り組んでいます。これらテーマにご関心のある方はぜひ研究室までご連絡いただけたら嬉しいです。

 

takumilab.sfc.keio.ac.jp

結局、ICT投資と企業業績にはどのような関係があるのか?

清水

今日みなさんと議論したいのは「デジタル時代に求められる組織の形態とはどういうものなのか」という問いです。この問いは、私が専攻する経営情報学のなかではメインストリームの関心といっていいものです。

 

とりわけ、「いわゆるデジタル投資やICT投資と呼ばれるような予算が、組織にどのような影響を与えているか、典型的には企業の業績にどのように結びついているか」という問いは、何十年にもわたって多くの研究が蓄積されています。ある国全体や産業全体といったマクロのレベルで見れば、当然のことながら、ICT投資は組織のパフォーマンスや企業の業績に対してプラスの影響を与えるということが明らかになっています。

 

ところが、ひとつひとつの企業や組織に着目すると、必ずしも投資が成果に結びついてるとは言えません。ICT投資は、全体として見れば効果はあるけれども、個別に見ていくとうまくいっているところとそうでないところがあるというわけです。そこで、どういった要因がこのばらつきを生んでいるのかという問いが、経営情報学では議論されています。

 

ここで実際のデータを少し見てみましょう。総務省OECDの統計を元に示したデータとして、世界各国のICT投資が近年どのように変化しているかを示したものがあります。これをみると、1995年を基準として、アメリカやフランスは3倍くらい増えていますが、日本ではほとんど増えていません。また、最近ボストンコンサルティンググループがグローバルで実施したスタディによれば、近年のDXブームのなかでも、日本企業は世界各国と比べてDXがうまくいっているといえる企業の割合が非常に少ないという分析をしています。つまり、日本はICT投資そのものの金額が少なく、また、ほかの国々に比べて投資をうまくいかしていないということです。先ほどお話ししたように、ICT投資を成果につなげられる組織と、そうでない組織があるということでもあります。

 

www.soumu.go.jp

 

デジタルトランスフォーメーションに関するグローバル調査2020(ボストン・コンサルティング・グループ)

 

このような違いが生じるひとつの要因として、組織がただICT投資をするだけではなく、お金を投じたインフラやプラットフォームを実際に活用しているかという基本的な問題があります。当然のことではありますが、この活用度合いというものは成果が出るか否かに非常に強く影響を与えるという研究結果が出てきています。当たり前だとは言っても、現場に目を向ければ簡単ではないことがわかるでしょう。デジタルツールを導入したからといって、現場でなかなか使われなかったり、使い始めてもうまくマネジメントできなかったりすることはままあるからです。

 

また、デジタル投資をパフォーマンスにつなげるためには、組織の敏捷性(agility)が深く関わっているという研究もあります。敏捷性とは、組織がフレキシブルに動けたり、いろいろなことをスピーディーに試せたりする度合いのことです。ほかにも、学習が促進されるような組織になっているか、新しいデジタルツールを使った際にそこで得られた知見をスピーディにチーム内で共有できる組織になっているか、個別のチームや部署のデジタル導入が全社的なデジタル戦略と整合的になっているかといった点も、ICT投資がパフォーマンスに結びつくかを左右する大きな要因であると言われています。

 

このようなデジタル投資をパフォーマンスにつなげるさまざまな要因のうち、今日は1. 組織文化2. リーダーシップのふたつについて、これまでわかってきている知見を詳しくお話していきたいと思います。

 

ICT投資を活かす組織文化

清水

まず、組織文化についてです。組織にデジタル文化を醸成することの重要性が明らかになりつつあります。たとえば、早稲田大学の平野雅章先生との共同研究の中では、デジタル活用の認識の感度が高い組織は、ICT投資をうまく業績につなげられているという結果が出てきています。反対に、そういった感度の低い組織は、あんまり業績があがっていません。これはひとつの例ですが、メンバーのデジタル活用への理解度によって、ICT投資のインパクトの大小が変わると言えるかもしれません。

 

また、2万人ほどのグローバルなビジネスエグゼクティブに対するサーベイ調査の結果によれば、多くの会社でデジタルが自分の事業や業界に破壊的な影響を与えてしまうという認識をもっています。60%以上のエグゼクティブが「デジタルによって大規模に産業が破壊される」と答えており、それは中規模な破壊まで含めると80%以上にものぼります。最近の例で言えば、Uberによってタクシー業界が大きく変化したように、デジタルによって産業が破壊的な影響を受ける例をみなさんもイメージできるのではないでしょうか。

 

他方で、デジタルが与える破壊的な影響に対して準備ができているかという質問に対して、準備できていると答えたエグゼクティブは40%程度に留まっています。つまり、多くの企業はデジタル技術によって破壊的な影響を受けると認識しているにもかかわらず、組織的な体制が整っているところは非常に少ないというわけです。こういった状況を踏まえると、デジタル環境に適応するためには、ただ投資をしたりプラットフォームやインフラを導入したりするだけではなく、組織文化や人材のトレーニング、組織構造を調整したり統合したりするといった取り組みを、会社全体の成長戦略や事業環境とうまく連動させながらデザインしていくことが重要だと考えられています。

 

それから、リスクを許容するような組織風土が重要です。昨今では非常に有名になった概念ですが、心理的安全性という言葉があります。デジタル活用においても、職場で恐れずにリスクを取れる環境があることは非常に重要です。そういった環境を土台にして、実験的に新しいことやリスクある取り組みを試していける風土を作ること、さらにはそれら実験がうまくいっているかどうかをモニターしたり、そのために必要な新しいサービスや取り組みに資源を投入したりすることが必要だと考えられています。

 

加えて、個々の人材に対してデジタルスキルの育成機会を提供したり、技術的なスキルとソフトスキルをバランスさせる経験を積ませるなどして、デジタル人材を育成・活用できる組織のデザインを行うことが重要です。こうした実験・学習する組織においては、先ほどご紹介したagility(敏捷性)というキーワードが重要です。たとえば、縦割りの部門ごとではなく、そこを横断する組織をつくり、流動的にチームを組み替えていくことが大切なのです。

 

ICT投資を活かすリーダーシップ

清水

これまで組織レベルの話をしてきましたが、個人レベルの話にも少し触れたいと思います。デジタル投資やDXの成功につなげるためには、リーダーが事業環境をどのように認識し、リーダーシップをとるべきでしょうか。

 

これまでのトラディショナルな事業環境とデジタル環境との大きな違いはどこにあるかという調査に対して、グローバル企業の経営者は「事業を進めるペース」や「組織に必要な文化とマインドセット」、「柔軟なワークプレイスの用意」等がこれまでとは異なると回答しています。

 

この調査はコロナ禍以前におこなわれたもので、現在ではこれらの重要性がさらに高まっていると思います。オンラインとオフラインを統合するハイブリッドワークに代表されるように、フレキシブルなワークプレイスの重要性はさらに高まっているからです。GAFAをはじめとする先端的なICTに携わる企業ですら、どれくらいリモートワークを許可し、どれくらい実際にオフィスで働くことを要求するべきなのか結論が出ていません。一度こうするというポリシーを出してすぐ撤回するというような状況もあり、模索が続いています。週のなかで分けるのではなく、部署や人ごとにリモートワークにするとか、仕事の内容や機能ごとに組み替えるといった考え方もあるでしょう。いずれにしても、事業環境の変化にフレキシブルに対応できる働き方や職場の設計が急務になってきているのです

 

経営者は、デジタル環境のなかで他社と競争していくうえで、能動的に変化を仕掛けていくためにどうすればいいか頭を悩ませています。単純な技術の理解度以上に、リスクを取り、不確実かつコンスタントな変化にどう対応していけるかが重要だと考えているのです。リーダー自身が技術に対する理解を持たなければ、DXやハイブリッドワークはもちろんうまくいきません。しかし、それ一本槍ではなく、技術や社会の変化を捉えたうえで、どのように会社を変えていきたいのか、組織のビジョンや全体としての組織の流れを見通す力、そのうえで変革を進めていく力がリーダーにとって重要だと考えられています。技術的な意味でのデジタル活用と、経営的な、マネジメント的な、組織的な、ソーシャル的な意味でのデジタル活用との二軸こそが組織や働き方の今後を考えるうえで重要になると思います。

 

鍵を握る「Sociomateriality(ソシオマテリアリティ)」

清水

最後に、私の研究分野でキーコンセプトになってきている「Sociomateriality」という概念を紹介したいと思います。これはざっくり言うと、socio=ソーシャルなもの(人間や組織、社会的な関係性など)と、material=物質的なもの(技術や物理的資源など)を両立するというアイデアです。この考え方の重要な点は、両者が一体的なものであって、双方向に影響を与え合うという点です。たとえば、リモートワークを実現する技術や設備(material)を導入すると、組織に新しいインタラクションやダイナミズム(social)が生まれてくる。さらには新しく生まれた組織メンバーのダイナミズム(social)が、組織に必要となる技術的仕組み(material)をさらに明確化する。そうした連関を捉えていくことがSociomaterialityを基盤とした考え方です。

 

これは先ほどお話ししたリーダーの役割とも似ています。人間関係や組織に関するsocialなスキルも持ちつつ、デジタルに関するmaterialなスキルも持つ。この二軸をもってハイブリッドに事業を推進していくことが今後重要になってくるのではないかと思います。私からの話題提供は以上となります、ありがとうございました。

 

【関連論文・ウェブサイト】

10 Sociomateriality: Challenging the Separation of Technology, Work and Organization(Wanda J. Orlikowski and Susan V. Scott)

 

en.wikipedia.org

シェアード・リーダーシップの価値

上島

大変興味深いですね。組織には「速さ」や「しなやかさ」「余裕」といったものが、ますます求められるであろうということですよね。そのためには、デジタル文化に対する投資がますます求められていると。ハードな組織をソフトな組織に変えていくうえで、企業のエグゼクティブやリーダーだけでなく、いち従業員や管理職の視点では、どのような働き方が求められるでしょうか。

 

清水

ありがとうございます。今回の話題提供では、トップマネジメント的な意味でのリーダーシップに焦点を当てました。その一方で、いまシェアード・リーダーシップと呼ばれるような、組織の成員それぞれがリーダーシップをシェアすることの重要性が高まってきていると言われます。たとえば、企業の変化のスピードがこれまでになく速まっていくなかで、トップひとりの頭ですべてを察知し、方向性を考えていくことは難しい。そこで、個別の部門やセクション、現場で変化に素早く対応したり、新しい実験を行ったりするというような動きが頻発していくことが、組織として理想的な状態だと考えられているのです。そのためには、いわゆる「長」のつく人たちだけではなくても、新しい取り組みを始めることができるような土台を組織的に培っていく必要があると考えています。そのためには、末端のメンバーであっても新規事業を提案して始められるような仕組みをつくるという制度的なアプローチも考えられますし、それを進めやすくするようなITインフラをつくるという技術的なアプローチも考えられます。あるいは、個々人がリスクを取りやすくなるような働きかけや動機づけ、職場の雰囲気といったウェットなアプローチも求められてくるだろうと思います。

 

上島

現場担当者が自分の持ち場を自分で工夫したり、改善していく、そのための裁量があるべきといったことですね。トヨタ生産方式でいう「カイゼン」を思い出します。

 

リーダー自身がデジタル文化に触れる

上島

大橋さんは清水さんのお話について、どのように感じられましたか?

 

大橋

ありがとうございます、大変興味深いお話でした。私が働いているイトーキは、オフィスをデザインし提案販売する会社ですから、非常に共感して聞いていました。オフィスは環境設備のための必要経費であるという従来的な考え方から、オフィスを変えることは企業の業績や、社員の活性化、変革のために必要な投資であるという考え方に変わってきています。そして、オフィスへの投資のど真ん中にデジタルというインフラがある。ですから、自分たちの事業を考えるうえでも、清水先生のお話は参考になりました。

 

ひとつ質問してみたいのは、オフィス投資のご提案を通じて、お客様のデジタル文化を深め、事業成長につなげていくうえで、どのような人材が向いているのかということです。そうしたプロジェクトを進めるうえでは、イトーキ側もクライアント側もプロジェクトリーダーが立つことになります。そういったリーダーに求められるスキルとして、先を見通す力やデジタル感度が高いことは理解できるのですが、それがいつも情報システム部門の方だけで良いかというと難しい。実際の現場では、どういった部署や人材によるプロジェクトが良いのかと思いまして、どうでしょうか?

 

清水

ありがとうございます、大変重要な問題提起をいただいたと思います。実際のところ誰が推進するのかと言われると、まさにおっしゃっていただいたように情報システム部門なのかということになりますけれども、必ずしもそれだけではないところがあります。DXの潮流はもちろん、それ以外のデジタル投資においても、既存の仕組みを単にデジタル化するだけではなく、デジタル化によってビジネスモデルそのものが変わったり、提供価値自体がまったく別物になったりすることが重要だと考えられています。事実、DXの本来の意味である「デジタル化による事業や組織の変革」を達成できた組織こそが圧倒的に伸びています。

 

そうなると、実際に事業を進める事業部門こそがデジタル導入を決断する必要があると考えています。情報システムを統括する部門だけではなく、事業の担当者や責任者がデジタル技術であったり、新しいアプリケーションやプラットフォームであったりを自ら導入し、事業を変革していく。そういう使い方をしてこそ、初めてデジタル投資が活きてくると思います。つまり、最初にテクノロジーがあってその使い方をどうするか考えるのではなく、むしろ事業のビジョンがあってそれにあってテクノロジーの使い方を考えるという順番が大事になります。この両方を事業部側がもっていればいいですが、当然ながらそういう組織や人材がいつもいるわけではありません。そこでコラボレーションの重要性が出てくるわけですけれども、やはり柱となるのは事業部側でしょう。

 

大橋

ありがとうございます、大変参考になります。

 

上島

そうなると、事業部の柱となる方がデジタル分野に先見性を持つ必要がありますよね。そのためにはどういった意識をもったり、アンテナを張ったりするべきでしょうか。

 

清水

私の考えでは、事業部のリーダーや担当者自身がデジタルの動向に触れることが非常に重要だと思います。全員がコンピューターサイエンスの学位を取る必要はありませんが、誰かに任せず自分で技術動向をつかむ必要はあると思います。いまシリコンバレーで大きくなっている企業を見ても、Googleの検索システムをつくったのはCEO本人ですし、Facebookも当然そうです。

 

テスラのイーロン・マスクであっても、自ら電気自動車をつくれるわけではないけれども、EV車をつくるうえでコストダウンできるのはどの部分なのかを自ら考えることができます。生産面のスペシャリストは別にいるとしても、本質的なところは自らコントロールしているのです。彼は「私の頭のなかでは、この部分はコストダウンできるはずだ、なぜできないのか?」という質問ができるくらいには、テクノロジーに精通していると言われます。事業を進めるうえでは、さまざまな分野の技術的なエキスパートの知を結集する必要があります。そのトップに立ち、グランドデザインを描くリーダーには、必ず技術的な知見が求められるだろうと考えています。

 

上島

デジタル文化の担い手、そのクリエイターにはならずとも、良き理解者となり、土地勘がわかるようになる。そのために、日常的にデジタル文化に触れておくとよい、ということですね。刺激的なご回答、ありがとうございました。

 

(後編に続く)

 

編集:瀬下翔太

協力:森実南

企画・制作:「データ流通市場の歩き方」編集部