データ流通市場の歩き方

株式会社日本データ取引所の公式ブログです。

地図とモビリティの未来 #2 快適な旅を楽しみたい──消費行動としての「移動」

データ流通ことはじめバナー画像

 標準化やデータ取引、分析ツールのオープン化が先行する地理空間情報の世界で、日本の基幹ビジネスは何を夢見ているのでしょうか──?

データ流通市場に関連する用語や、業界動向を解説する本連載。前回からは、「モビリティ」そして「地図」をテーマに、道路交通ビジネスの歴史を振り返り、未来に向けての課題を考えています。

今回の記事では「旅」というキーワードから出発して、消費行動としての「移動」と、その普及の過程で発達してきた移動手段について考えてみます。

 

▼前回の記事はこちら

blog.j-dex.co.jp

「余暇(leisure)」としての移動

図表 13 移動要因の例

図表 13 移動要因の例


前回の記事で整理したように、「移動」というルーティーンは、食糧や生存、種の保存といった生理的欲求を満たすことから離れ、やがて都市化に伴うビジネスやサービスの集積を目指し、日々の暮らしに組み込まれてきました。「生き延びるための移動」は、「稼ぐための移動」に変わり、「自由のための移動」となって、多彩な性格を持つに至るのです。

blog.j-dex.co.jp

 

気晴らしのための散歩、健康のためのランニング、特別列車や豪華客船、ラッピングバスに乗ること、それを写真におさめること、その思い出を共有すること。これらは自己実現のための移動」だといえるでしょう。

日本では1953年に初の全国規模の愛好団体「鉄道友の会」が設立され、1970年代以降のSLブームも手伝って、一般人に手の届く趣味に「鉄道」が加わりました。 [Wikipedia]

列車に乗ること、駅周りの散策が好きな人を「乗り鉄」、車体や駅の撮影にこだわる「撮り鉄」、走行音や発車メロディ、走行中の列車を録画・録音する「録り鉄」(とりてつ)、廃止・廃車間近の路線・車両を愛する「葬式鉄」など、こだわりの細分化が進んで、いまや「鉄道ファン」とひと括りにはできません。
乗りこなすだけでなく、愛車のカスタマイズを「自己表現、自己実現」だというバイクファンもいます。 [blueskyfuji]クレーンなどの重機操縦も愛好者はいます。「日本バス友の会」(1980-)は、「車両技術史的に価値の高い車両や一時代を代表する車両を産業文化財として後世に伝える」バスの保存活動を行う団体です。商用化の進むロケット開発も、派生するビジネスだけではなく、宇宙旅行という「体験そのもの」が目的でしょう。
「余暇としての移動」は、部外者の想像を遥かに凌駕するほどの幅広さを持つに至ったのです。

「お出かけ促進」という経済政策

人が動けばお金が動き、お金が動けば地域が潤います。特に地方都市圏では、物流がまちの隅々をカバーできないため、中心部に集約された財やサービス、あるいは仕事を取りに「来てもらう」必要があります。そこで重視されるのは「移動」の「快適さ」と「お得感」です。例えば遠鉄バスでは、周辺地域から浜松駅中心部への買い物客向けに「メイワン お帰りきっぷ」を配布し、人の移動と消費を促そうとしています。

図表 14 周辺地域からの集客施策例

図表 14 周辺地域からの集客施策例


定期券利用者とのコンタクトポイントを強化する動きもあります。東急電鉄は2018年3月から全国初の12ヶ月定期券を発行。お値段は6ヶ月定期券の2倍で割引率は変わりませんが、TOKYU CARDでPASMO定期券を買うと、電車バスの交通ポイントは最大3%、東急グループ会員サービス「TOKYU ROYAL CLUB」メンバーなら最大10%ポイントが加算されます。 [東京急行電鉄株式会社]
鉄道事業は、駅の利用促進を核に、交通、不動産、生活サービスその他の相乗効果を目指すビジネスモデルですが、沿線住民のさらなるロックオンを図る取組みです。

世界一の運行ダイヤ──精密で正確な「移動」のために

日本の鉄道は数分遅れただけで謝罪のアナウンスが繰り返され、毎朝のように遅延証明が発行されています。インバウンド訪日客がビックリするシーンとして有名ですね。以下の動画(badger「山手線 朝ラッシュ時の運行略図(2020年度)」)などを見ると、この過密ダイヤを毎週5日間よく継続していると感心してしまいます。

youtu.be


イギリスやフランス、スペイン、アメリカをはじめ、世界の鉄道会社でも遅延証明書を発行するところがあります。 [セカイコネクト]

時間に正確そうなドイツですら、突然の運休が珍しくないといいます。とはいえ、休まないこと、遅れないことが大前提の日本とは、遅延証明の位置づけも異なります。鉄道都合で電車の乗継ができなくなった際、代替の移動手段を確保するための証明であって、勤務先や学校に提示するものではないようです。 [ドイツで電車が遅延!?運休!?トラブルが起こったときの対処法]

痛勤」が大問題!

新規開通は一段落しましたが、2020年へ向けたバリアフリー化、JR京都線総持寺駅開業(2018年3月)、東京メトロ日比谷線虎ノ門ヒルズ駅開業(2020年6月)、JR山手線品川ゲートウェイ駅開業(2020年3月)などの拡充は、都内でもまだまだ続きます。

他方、生産性向上、働き方改革の文脈では痛勤が大問題に。東京都は2017年から「時差Biz」キャンペーンを開始し、2018年は鉄道12社、民間等822社が参加。キャンペーン予算も昨前年比1.5倍の9,000万円を投じています。「東西線早起き部」「京王ライナー」の座席指定列車サービス(調布駅に止まらないと話題に)といった、一極集中ならではの取組みも注目を集めます。
ただ、「アンケートで「普段より空いていた」と答えた人が過半数だったのは、7時30分までに出社した人か、9時31分から11時00分に出社した人だった。9時出社の企業の場合、1時間半以上早く出勤しないと効果を感じにくい」との分析もあります。効果検証が不十分という指摘です。

toyokeizai.net
2020年東京オリンピックでは「競技集中日の朝のラッシュ時に東京圏の鉄道が止まり、予定の時間に競技場や会社にたどり着けない人が続出」、特に駅が狭い永田町駅では「ホームや通路が人で埋まって電車への乗降が滞り、電車が立ち往生」との警鐘も出ており、 [畑川剛毅]超党派のスポーツ議員連盟等は2018年4月23日、大会特別措置法の改正案の提出を決め [毎日新聞]、2020年に限り「海の日」は7月23日に、「体育の日(スポーツの日)」は7月24日に、「山の日」は8月10日に移動されることになりました。[内閣府]

じわり盛り上がる、「自転車」への期待

「移動」を個人の財産にしたのが自動車なら、都市に合わせて小口化した乗り物が、自転車です。都心を中心に自転車専用レーンの整備も進み、通勤・通学の全行程に利用する人も増えています。
二酸化炭素等を発生せず、災害時において機動的」な移動手段として、政府は2016年に自転車活用推進法を成立させ(施行は2017年5月)、2017年3月には「自転車の活用に関する業務の基本方針について」を閣議決定しました。 [国土交通省]「自動車依存の低減により、健康増進・交通混雑の緩和等、経済的・社会的な効果」を目指すもので、2018年6月8日にパブリックコメントを経て「自転車活用推進計画」を決定。 [国土交通省]6月25日には自転車活用推進議員連盟が記念イベント「青空総会」を開催し、官民の関係者が一堂に会しました。 [山口健太]
同計画には地方公共団体にも自転車活用推進計画(自転車ネットワーク計画を含む)策定を求めており、2018年7月現在105自治体が計画を策定しています。 [奥田秀樹]

地域のコミュニティサイクル

自転車活用推進計画では2020年度までにシェアサイクルポートを全国1,700箇所(2016年852箇所)に、自転車通勤率を16.4%に引き上げることとしています。こうした政府の動きと並行して、NTTドコモソフトバンク、中国ofo、メルカリなどが参入した結果、2008年頃から自治体のコミュニティサイクルサービスも増加傾向です(ただしofoは10月に日本市場撤退を表明)。国土交通省のアンケート調査によると、「観光推進」「公共交通補完」「地域活性化」といった目的でコミュニティサイクルを導入する自治体は、2017年時点で110に達しました。

docomo-cycle.jp

都内では千代田区中央区、港区、新宿区、文京区、江東区、品川区、大田区、渋谷区9区の510ポートで5,800台(2018年6月現在)の自転車を貸出・返却できる「東京自転車シェアリング」が便利です。1回会員は30分150円、月額会員は月2,000円で利用できます。運営はNTTドコモのグループ会社ドコモ・バイクシェアで、同様のビジネスを横浜市仙台市奈良県青森県岩手県(東北自転車旅)などで展開します。 [株式会社ドコモ・バイクシェア]

さいごに

今回の記事では、「余暇としての移動」「消費行動としての移動」の広がりと、それに伴う新たな経済の動き、そして新たな移動手段について見てきました。次回は「バス」を軸にして、いよいよ交通データ活用の現状と課題に迫ります。

▼次回の記事はこちら

blog.j-dex.co.jp

お知らせ

私たち日本データ取引所は、売りたいデータを簡単に出品でき、欲しいデータをすぐに探せるデータマーケットプレイス「JDEX」を運営しています。データ活用を一歩前に進めたい方は、ぜひ以下のリンクにアクセスしてみてください。

www.service.jdex.jp

(著作:清水響子+編集部 編集・構成:編集部)