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【連載:データ流通ことはじめ】(5)地図とモビリティの未来 #3 バスの車窓から見た「移動」──交通データ活用の現状と課題

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 標準化やデータ取引、分析ツールのオープン化が先行する地理空間情報の世界で、日本の基幹ビジネスは何を夢見ているのでしょうか──?

データ流通市場に関連する用語や、業界動向を解説する本連載。前回に引き続き、テーマは「地図」「モビリティ」です。

今回の記事では、交通データ活用の現状と課題を「バス事業」から考えてみましょう。

 

▼前回の記事はこちら

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バス事業は交通データ活用の課題の縮図

都市政策が採択可能な交通手段やその運営頻度は、クリティカルマスの規模やユーザーが許容可能な負担によって、もろに影響を受けます。その意味でバス事業は、大型乗用車という資源を地域住民が共有する、究極のシェアエコノミーともいえます。

バス事業の種類と台数

バスは、人口の少ないエリアでは貴重な公共交通です。駅や線路がいらないため、鉄道に比べて初期投資を抑えられます。1日1便しか走らない路線もありますが(例:潮来市)、それでもバス停の標識は立っています。タクシーと比べて乗用人数が多く、鉄道に比べて小回りの効く、安価で便利な乗り物といえるでしょう。
日本国内のバス停数は、乗り場番号が40もある「渋谷駅」を1とカウントしても、約20万箇所はあるといわれます。多くの乗り場は上りと下りで異なるので、少なく見積もっても50万箇所以上がある計算になります。車道が狭くて、標識のない反対車線の歩道もバス停扱いされる「バーチャルバス停」も含めると、その数はさらに増えることでしょう。
けれども、利用者が少なくて収入が見込めなければ、本数を減らすなどの対応が必要で、民間事業者の経営努力だけでは限界があります。このため多くの地域で自治体が地域バスを運営していて、それらは自治体バス」と呼ばれています。

バス産業の動向は──事業者数、輸送人員、走行距離

自治体バスには大きく2種類があります、民間事業者に委託された「白ナンバー」(自家用)と、路線バス事業者に委託された「緑ナンバー」(営業用)です。後者は自治体が事業者の営業車両を借り切っているため、車両脇には「乗合」ではなく「貸切」と表記されます。交通局(交通部)によっては「公営バス」もあり、地方公営企業法に基づき、独立採算で運営されています。
1955年(昭和30年)に300強だったバス事業者数は、2004年に4,000社を超えてから減っておらず、全国で6,791社が営業中(図表15)。車両数は乗合60,429台、貸切51,539台で、年間4億5,000万人を輸送しています。

図表 15 日本のバス事業者数推移(国土交通省 自動車関係統計データより)

図表 15 日本のバス事業者数推移(国土交通省 自動車関係統計データより)

「乗合」バスですが、実は都市圏以外エリアでは乗客がどんどん減っています。車両数は6万台ほどと50年近く変わらないのに、年間輸送人員は1970年の10億人をピークに半減。その他(三大都市圏以外)では5.7億人から1.4億人と大幅に減っています。車両あたり輸送人員も半分以下(図表16)。

図表 16 乗合バスの輸送人員と車両数推移(国土交通省 自動車関係統計データより)

図表 16 乗合バスの輸送人員と車両数推移(国土交通省 自動車関係統計データより)

とはいえ車両あたり走行距離に大きな変化はなく(図表17)、乗客一人あたりの年間走行距離は0.27kmから0.73kmと50年間で3倍近くに。それだけ、三大都市圏に利用が集中したといえそうです。

図表 17 高速乗合バスの輸送人員と走行距離(国土交通省 自動車関係統計データより)

図表 17 高速乗合バスの輸送人員と走行距離(国土交通省 自動車関係統計データより)


運行管制を効率化するために、新宿エリアでは2016年4月にバスタ新宿(新宿高速バスターミナル)が開業、19箇所に分散していたバスターミナルを集約し、1日平均1600便、39府県300都市をネットワーク。いまだ乗り場が分散する東京駅も、八重洲口の向かい側に新しいバスターミナルを建設し、路上の高速バス停留所や、鍛冶橋駐車場などの発着便を集約する計画です。

trafficnews.jpまた、2017年1月には国土交通省が、外国人向けの「Japan Bus-Gateway」を開設。英語、簡体字中国語、繁体字中国語、韓国語で、高速バスの利用案内や、予約サイトへのリンクが始まりました。というのも、旅行目的の多様化と外国人訪日客の増加を追い風に、高速バスも利用が増えているのです(図表18)。

図表 18 高速乗合バスの輸送人員と走行距離(国土交通省 自動車関係統計データより)

図表 18 高速乗合バスの輸送人員と走行距離(国土交通省 自動車関係統計データより)

2015年には約1.15億人と、国内の居住人口とほぼ同じ数の乗客を運んでいます。旅行代理店がチャーターする貸切団体バスだけでなく、個人で高速バスを利用することも増えているとか。
たとえば、中国・台湾・香港の観光客から、昇龍道(ドラゴン・ロード)と呼ばれて人気を集める観光ルートがあります。これは2014年に、名鉄バス濃飛乗合自動車らが外国人のみを対象に「昇龍道高速バスきっぷ」を発売したのがきっかけ。中部・北陸9県が連携したプロモーション活動の成果もあり、松本を経由して高山、白川郷、金沢・富山へ向かう「三つ星ルート」や、富士五湖も人気です。 [成定竜一]

課題となる「データ作成」のマネタイズ

このようにバスは便利な乗り物ですが、時刻表や路線図といった基本的なデータでさえ、なかなか整備が行き届かないという大問題も抱えています。都営バスならGoogle Mapでも検索対象になりますし、都バス運行情報tobus.jpで車両接近情報もわかります。しかし自治体バス・公営バスの多くは、時刻表すら印刷用PDF路線図とともに提供されているだけだったりします。きっと一所懸命作られたのだろうクリッカブルマップもあります。

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小規模の事業者が、運行情報システムを単独で構築・運営するのは非-現実的です。まして自治体のコミュニティバスとなれば、そのハードルが高いのは想像に難くありません。国土交通省が2018年10月 行き先情報の表示方法について乗合バスの運行系統のナンバリング等に関するガイドラインを公表しましたが、実装にはまだ時間がかかりそうです。 [日本経済新聞社]

バスデータ標準化の取り組み

そこで注目されているのが、Googleの交通データ・フォーマット、GTFS(General Transit Feed Specification)(2005-)。バス停の名称や位置、路線、時刻表や料金表などの様式を提供し、それに沿ってGoogle Mapへデータを登録すると、乗り換え案内の検索対象になります。世界で1,000近い交通事業者が利用するといわれます。
公共交通オープンデータの専門家である東京大学・伊藤昌毅教授は、そのメリットを「データ構造が素直な表現」で、世界そして日本でも「実績と効果がわかりやすい」こと、そして「コミュニティにより標準化されている」点をあげていて、静岡県島田市焼津市、石川県能美市といった自治体の事例を紹介しています。 [伊藤昌毅] こうした動きをふまえて、国土交通省も、「標準的なバス情報フォーマット」を定め、解説書を公開しました(2017年3月31日)。[国土交通省]
その一方で、「東京公共交通オープンデータチャレンジ」(2017年12月7日から2018年3月15日)では、ハッカソン用に公開されたデータの構造指定や正確さといった品質のばらつきに注目が集まる騒ぎに。 [鳴海行人]データ公開に対する社会のニーズと、それに応えるためのハードルが周知された格好です。良くも悪くも、「放置」は許されなくなりつつあり、前進といえるのでしょう。

誰が「管理コスト」を負担するのか?

www.sinjidai.comそうしたなか、Sujiya Systemsは、「標準的なバス情報フォーマット」とGTFSに対応した「その筋屋」を無償提供しています。プログラミング知識がなくても使える運行ダイヤ編成支援システムで、バスの起点と終点をクリックすると、バスがどの時刻にどの停留所を通過するかを示した「筋(斜線)」を引くことができます。 [片岡義明] Google乗換案内にも掲載されるとあって、比較的小さなバス会社──永井運輸群馬県前橋市)や青森市営バスなど──にとっても、着手のハードルを下げられたよう。 [鳴海行人]
もちろん、こうした取り組みが増えることは喜ばしいことです。かといって、バス業界はただでさえ人手が足りません。中小企業の非IT人材が、GTFS対応データをゴリゴリ作成・管理すべきなのか? 代わりに運営すべきなのは、国なのか自治体なのかベンチャーなのか? まだまだ議論の余地はありそうです。いずれにせよ、持続性のある(マネタイズできる)解決が望まれます。

ある視点──モバイル位置情報を活用したバス運行情報の配信

実際の移動には、その車両の位置情報や運行情報、満空情報といった動的データも重要です。車椅子やベビーカーを使う方が、乗りたい時間に乗車できるのか、快適に過ごせる混雑度か、といったことがわかれば、モビリティの質が向上します。
例えば、国立情報学研究所(NII)と北海道大学は、札幌市でビーコンを活用してバス運行情報を共有する実証実験「Ride around-the-corner.」を開始。乗車中、またはバス停にいる乗客のスマートフォンが発する信号をキャッチ・分析して、バス車両の位置情報を把握するモデルです。すべての車両にGPSや通信回線を設置せずに済み、低コスト運用が可能です。

news.mynavi.jp乗客データの活用は、交通インフラの整っていない新興国でも行われています。ケニア共和国の首都ナイロビには、90もの路線がありながら、日本のように詳細なルートマップや時刻表が存在しません。起業家の塩尻吉太郎氏は、いまから5年以上も前の2012年に、ナイロビのミニバス「マタツ」の走行ルートをデータ化し、乗り換え案内アプリ「MATNAVI」を開発。[shiojiri]車両の位置情報を、乗客のスマホGPSから取得することで、バス運営者のコストを抑え、市民の足をたすけています。
もちろん、動的データの取得には、それなりにシステム構築費用がかかります国土交通省も「メリットや費用対効果について十分な検証がなされていない」ことを課題にあげています。(第1回オープンデータ官民ラウンドテーブル「首都圏の交通事業者(鉄道、バス)における情報提供の現状と課題」より)
けれども、大掛かりな設備投資をせずとも、比較的安価にデータを取得できる装置は増えています。 [清水響子]財・サービスを届けることにフォーカスすれば、正確な住所情報がなくても、UAE「Makani Number」のように、GISで受取人の居場所を特定する発想も可能でしょう。[Leijen]
データの完全性にこだわらず、マーケティング活用によるデータのマネタイズを視野に入れた、「ベストエフォートのデータ流通」という考え方はできないのでしょうか。

さいごに

「バス」という一つの交通機関から、データ活用の現状や課題を考えてきました。次回は「地図」を通して、データ活用の今と昔を解説してみようと思います。

▼次回の記事はこちら

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(著作:清水響子+編集部 編集・構成:編集部)