データ流通市場の歩き方

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【連載:データ流通ことはじめ】(7)地図とモビリティの未来 #5 スマートモビリティ、コネクテッドモビリティの現在

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 標準化やデータ取引、分析ツールのオープン化が先行する地理空間情報の世界で、日本の基幹ビジネスは何を夢見ているのでしょうか──?

データ流通市場に関連する用語や、業界動向を解説する本連載。第3回以降は「モビリティ」そして「地図」をテーマに、道路交通ビジネスの歴史を振り返り、未来に向けての課題を考えてきました。

今回は「機械が読む」ための地図からスタートして、スマートモビリティ、コネクテッドモビリティの現在、そしてこれからのモビリティを考えます。

 

▼前回の記事はこちら

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「機械が読む」ための地図──自動運転の実現を目指して

2018年6月15日に閣議決定した「未来投資戦略2018─ 「Society 5.0」「データ駆動型社会」への変革─」では、世界に先駆けた自動運転及び公共交通のスマート化を含む「次世代モビリティ・システムの実現」が掲げられ、2020年までに無人自動運転による移動サービス、2022年までに高速道路でのトラックの隊列走行の実現を目指す計画です。
紙の地図やカーナビ、スマホアプリは、目的地までの方角や道順、道路状況などを提供しますが、その情報はあくまで人間が視聴するものでした。無人運転においてそうした情報を必要とする主体は、車そのものです。自動車に搭載されたミリ波レーダーや超音波センサー、光学式カメラなどから膨大なデータをキャッチし、車道の中心線や道路間のつながり、横断歩道、停止線、交通標識、看板の位置など、さまざまな情報の突き合わせで、運転の安全性を確保します。
道路標識など「事物」のデータは、その都度車が読み取りにいくと負荷が大きく、産業界をあげて共通のデジタル地図「ダイナミックマップ」の開発が進んでいます。[片岡義明]

図表 27 ダイナミックマップの構成

図表 27 ダイナミックマップの構成

「あらゆるデータ」をひとつの地図上に――重点産業振興に向けて

ダイナミックマップには、事物などの静的情報、交通規制や道路工事、気象などの準静的情報、事故、渋滞、広域気象などの準動的情報、周辺の歩行者や車両、信号といった動的情報が組み込まれ、車載センサーでは判別できない遠くの道路状況を先読みしたり、悪天候等でためセンサー検知が難しい場合でも安定した自動運転をサポートしたりします。

www.dynamic-maps.co.jp

ダイナミックマップの開発は、「戦略的イノベーション創造プログラム(Strategic Innovation Promotion Program : SIP)」第1期の「自動運転(システムとサービスの拡張)」分野における重要5課題のひとつ。SIPは総合科学技術・イノベーション会議が司令塔に立ち、府省や旧来の分野の枠を超えた科学技術イノベーションを目指しています。産業革新機構33.5%、三菱電機14.0%、パスコ・ゼンリン各12.0%と自動車9社各0.25%等の資本構成からなるダイナミックマップ基盤株式会社が、協調して自動運転時代の共通インフラを開発しています(図表28)。

図表 28 ダイナミックマップの検討体制

図表 28 ダイナミックマップの検討体制

産業の基礎となるデータは「みんな」の資産

ダイナミックマップ基盤の取組は、「データは誰のものか?」という議論に費やす時間やコストを避け、協調領域としてのデータを、同業他社が一堂に会して共同開発する試みです。国内プレイヤーが規格争いに勤しんでいる場合ではないとの認識を共有しているものと見られます。
国土交通省は2016年11月に「インフラメンテナンス国民会議」を設置し、産学官民が有する技術や知恵を総動員するためのプラットフォームを通じて、未来世代によりよいインフラを引き継ぐ構えです。会議には2019年5月現在で716企業、672の公共機関、145団体及び186名の個人が参加し、革新的河川管理プロジェクトや次世代社会インフラ用ロボットの開発・導入といった施策を進めるとともに、道路(橋梁、トンネル等)、砂防、ダム、港湾等の基本情報や維持管理情報の検索・分析システム「社会資本情報プラットフォーム」を公開。2021年には、国土交通省のデータと民間のデータを連携し、現実空間の事象をサイバー空間上に再現するデジタルツイン「国土交通データプラットフォーム」が公開されました。

推進体制の課題

世界的にデジタル・ガバメントへのシフトが本格化するなか、「移動」を含む官民データの流通と利活用について、総論で大反対というスタンスは、一部に限られると考えられます。McKinseyは政治に影響されず、かつ予算を持った中心組織(a strong central digitization unit)の確立が政府デジタル改革の要諦としています。[Matthias Daub]「社会課題を乗り越えるのに、充分な推進体制なのか?」が問われることでしょう。
官民データ活用推進基本法の制定を提言してきた現・平井卓也デジタル改革担当大臣は、「デジタル・ニッポン2018」のなかで、「官民データ活用を促進してデータ資源大国を実現するためには、現行のCIO制度だけでは限界」と指摘。省または庁として、デジタルトランスフォーメーションのための組織を設ける必要に触れています(図表29)。[平井卓也]CDO不在については政府も「日本の取組みは担当者のパーソナリティ依存」との課題を認識しているようです。[電子行政分科会事務局]

図表 29 「デジタルトランスフォーメーション組織(庁/省)」への発展を提言 「デジタル・ニッポン2018~ハイタッチな「My Future Government」~」より

図表 29 「デジタルトランスフォーメーション組織(庁/省)」への発展を提言 「デジタル・ニッポン2018~ハイタッチな「My Future Government」~」より

データ所有権の問題に加え、捺印文化や文書主義、漢字・かな・カタカナ・アルファベットと全角・半角を大らかに使いわける日本語に特有な「データ品質」の問題、データの正確性を重んじる公共機関の生真面目さと、タテ割り体質といった「組織マネジメント」の問題、整備の行き届きすぎた生活インフラなど「要求レベルの問題」と、イノベーションの障壁は数多く残っています。

it.impressbm.co.jp2021年9月、日本にもついにデジタル庁が設置されました。今後の動向が楽しみです。

www.digital.go.jp

 

もうすぐ来るという産業構造の転換に向けて

「CASE」、すなわちConnectivity(接続性)、Autonomous(自動運転)、Shared(共有)、Electric(電動化)の波が押し寄せています。
2030年頃には、完全自動運転が広く普及するとの予測があります。[塩澤誠一郎] 自動運転の安全性が完全に近づくほど、「自殺できる車」は、一部の超セレブだけが所有できる「趣味」の乗り物と化すのかもしれません。事故が起きないので、信号機や1mあたり5000から9000円+工賃10万円といわれるガードレールもいまほど存在価値がなくなり、関連事業者は存亡の危機です。
自動車教習場や運転免許更新に関わる、様々な利権も淘汰されるでしょう。公道の維持・管理ではなく、専用サーキットの興行化がビジネスになるかもしれません。自動車及び周辺機器メーカー、損害保険会社、生命保険会社、道路・関連施設、通信設備の建設・保守に関わる事業者など、既存のビジネスモデルの転換を迫られる組織は少なくないでしょう。
高速道路の逆走事故は姿を消すと期待されます(2011年から2015年9月の間に913件も発生していますが)。ドラレコが強化するシニアドライバー向けの安全運転支援機能はその役割を終えるでしょう。自家用車の漸減で、ビジネスモデル転換の最中にいる損害保険会社は、個人ではなくシェアサービスやシステム会社をターゲットに変え、サイバーセキュリティに関する保険を提案するようになるかもしれません。物流・運輸業界が必死で確保・育成に努めるドライバーには、どんな仕事を提供できるでしょうか。
自動車事故ゼロの社会へ向け、ステークホルダーがどう幸せを守り続けるか。「移動」の主体は依然として人やモノなのか、仕事やサービス、情報なのか──。今後蓄積されていく膨大な関連データに基づき、様々な可能性も含めて、モビリティの未来を議論していくべきなのでしょう。

さいごに

シリーズ「地図とモビリティの未来」は、この記事でいったん区切りとなります。

次回からの連載「データ流通ことはじめ」は、「住まいと安全」をテーマにした記事をお送りする予定です。どうぞご期待ください!

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(著作:清水響子+編集部 編集・構成:編集部)