データ流通市場の歩き方

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試される日本の都市計画 #2「都市化」の先に何が起こるか

データ流通ことはじめバナー画像こんにちは。本連載では、データ流通市場に関連する用語や、業界動向を解説しています。

前回からのテーマは「住まいと安全」。地球の都市化を確認した前回に続き、今回は現代日本における都市化を入り口に、都市化がもたらすものを見ていきます。

現代日本史における都市化の流れ

図4

日本の都市化は、都市政策と産業構造の転換によって進んだと言われます。1950年、戦後復興期の都市人口は53.4%でした。それが1970年までにかけて85.7%に急増します(20年で22.3%増) (図表5 日本における都市/地方別人口比率 [United Nations, 2014])。いわゆる三大工業地帯への政策投資が、農村部から都市部への人口流入を促したためです(重化学工業化)。

やがて、大企業の地方進出(企業城下町)と行政の再分配政策(Uターン推進)により、1980~90年代には都市化率は横ばいになります。国連経済社会局の統計では2000年代にかけて再上昇しますが(15年で14.8%増(推計含む))、これはどうやら「平成の大合併」で見かけの都市あたり人口が増えたため。日本銀行のワーキングペーパーでは、若者の数が減り、お年寄りが住み替えに消極的であることで、国内の人口増加率は大都市圏と郊外圏のどちらも鈍化または減退していると見ます。「都市が地方を搾取している」のではなく、「都市も地方も痩せ衰えつつある」のです。[日本銀行「わが国の「都市化率」に関する事実整理と考察」, 2009
 

図表 5  日本における都市/地方別人口比率 [United Nations, 2014]

図表 5  日本における都市/地方別人口比率 [United Nations, 2014]

事態を重く見る内閣府は、「コンパクトシティ」を掲げ、次のような指針を打ち出しています。

公共サービスにおいては、人口減少によりサービス提供の効率性が悪化し、結果として、住民負担はより重くなる可能性がある。人口規模に応じて市域をコンパクト化し、人口密度を一定程度に維持することは、地域の持続性を維持するために欠かせない。 [内閣府, 2016]

このように、日本国内の主要都市を「課題先進地域」と見なす考えも浸透してきました。課題解決のコンセプトは様々な用語で形容されます。スマートシティ、コンパクトシティ、シェアリングシティ、都市ビッグデータ、インフラレジシエンスなどが用いられます。いずれも共通して、都市化に伴うメリットの最大化、デメリットの最小化を、新しい情報技術を用いて実現しようとする試みです。しかし如何せん、「都市を丸ごと情報化する」という構想が巨大だからか、関連する概念が節操なく関係づけられ、個々の用語の定義もいたずらに拡張されてしまいがちです。

そもそも、住まいとはどういうことか

ここでは原点に立ち戻って考えましょう。記事冒頭では国際動向をにらみながら、「都市」とは「多くの人が住み、暮らし、訪ねる場」であり、地球規模で「増殖」していると考えてきました。そのより小さい単位が「住まい」と呼ばれます。もちろん「住むこと」とは、周囲の環境(気候、外敵、他人の視線や侵入など)から身を守り、ひとつの共同体として生活を営むことに他なりません。

これらを行政から見ると、「都市」とは(課税対象として)資産が登記されている「用地の集合体」であり、行政サービスを受ける市民が居住する「人口動態の全体」でもあります。マンションデベロッパーにとって「住まい」は入居者を受け入れる「受け皿」であり、住宅メーカーにとっては「生活空間」であって、建築哲学の視点では住人の日々の暮らしを生み出す「装置」でしょう。 [柳澤 田実] それでは、データ活用の視点から見たとき、「都市(または住まい)」が変化することの利点・難点は、どのように整理できるでしょうか。

図表6

概要やキーワードを整理してみると(図表6)、どの用語でも、新しい「都市」の「再設計」を目指す概念として提唱されています。
例えば「スマートシティ」とは、都市をひとつの単位として「ITや環境技術などの先端技術を駆使して街全体の電力の有効利用を図ることで、省資源化を徹底した環境配慮型都市」であって、「家庭同士やオフィスビル同士と発電所などを双方向で通信できる情報網と送電網でつなぎ、ある家庭で余剰な電力を不足している家庭に送電するなどして需給バランスを最適に保つスマートグリッド(次世代送電網)などが中核技術」だと説明されています。 [コトバンク, 2013]他方で行政データのオープン化とその活用が進むにつれ、「市民のパーソナルデータや自治体が保有するオープンデータの収集・活用によって都市を活性化する取組み」 [多田 和市, 2017]といった側面でも語られるようにもなりました。

世の中で関心が高まるのは歓迎すべきですが、その実状をより良く知るには、ありきたりな固定観念から離れて、新しい概念が何を意味しようとしているかを捉えなおさなければなりません。

図表 7 スマートシティのイメージ図 [八山幸司(JETRO/IPA New York), 2015]

図表 7 スマートシティのイメージ図 [八山幸司(JETRO/IPA New York), 2015]


 「都市化」のメリット:地域の暮らしが「便利」になる

前向きに考えると、都市機能を一定の地域へ集積させることで、道路交通網や上下水道、電気・ガス配管、物流網などの生活インフラをきめ細かく配備できます。買いものや食事、余暇・娯楽も身近で済ませられますし、職場や役所、郵便局、学校、病院などにも通いやすくなります。

生産-流通-消費の拠点ができ、諸面で手間と負担が抑えられれば、誰もが一定の品質で均一なサービスが受けられます。これは否定しがたい利点です。事業者間の競争が加速する一方で、人口の少ない地域では成り立たない、専門に特化したニッチ・ビジネスが生き残る余地も生まれます。住民同士が地理的に身近になれば、新しい交流のきっかけも作りやすいでしょう。出自のちがう人々が集まれば、互いの能力・資産を「分け合う」「持ち寄る」ことも気軽に行えます(シェアリングシティの論点)。総じて、経済効率性が高まると言えます。

「都市化」のデメリット1:「負荷集中」が起き、危機・事故に弱くなる

しかしその反面、特定地域やその管理主体に負荷/資源が集中しやすくなります。人口過密による街路や鉄道の混雑、交通渋滞、建築物の高層化-深層化、エネルギー供給網や情報通信ネットワークの複雑化などが起きるのです(スマートシティの論点)。

それらは都市の脆弱性となって、資源の浪費や思わぬ事故、住民間の紛争・騒動、環境汚染、突発犯罪の温床にもなりかねません。緊急時や災害時、祝祭時にその危機が現れやすいのも困ったもの。防犯・防災のためのシステム維持にも手間がかかります(インフラレジリエンスの論点)。

そうした一切を嫌って、裕福な人々が都市の周縁に移住していき、「郊外」が商業都市として成長した一方、中心都市で居住人口の空洞化が進んだ歴史は周知の通りです(郊外、田園都市ニュータウンなど)。これは先進各国に共通する国際課題で、2030年には世界のスラム人口が20億人に達するとの推計さえあります。 

「都市化」のデメリット2:過疎エリアとの「格差」が生じる

加えて、人やお金、エネルギーなどの資源が一極集中すると、都市化「できなかった」地域との経済格差が開くと非難されることもしばしば。人口減少や、それに伴う空き家増、施設・交通の老朽化、医療・生活インフラの劣化など、廃れて行く都市の維持も課題です。「平成の大合併」を経たあとでも、居住域の縮小や廃村の進め方を現実問題として継続審議しなければならない自治体は少なくないでしょう(コンパクトシティの論点)。都心回帰や地方移住が脚光を浴び、ゴーストタウンや廃墟を観光資源にするアイデアが注目されるのは、都市政策の舵取りが難しいことを象徴しているのかもしれません。
 

「都市化」のデメリット3:居住者の孤独や不安が膨らむ

住民の顔ぶれが多彩になるからこそ、生い立ちや考え、言語のちがう他人への配慮も求められます。軋轢を産まない関係のための心理的ストレスは増えるでしょう。かえって住民間の没交渉や無関心、棲み分けも生じかねません。ふり返れば、都市の孤独、不安、閉塞感などは、20世紀のポップカルチャーがこぞって扱う人気の題材のひとつでした。職住分離やゾーニング、入居規制、不審者の取り締まり強化はたしかに合理的ですが、「ご近所付き合い」や「うるおい・刺激のある生活」を邪魔してしまうとはよく言われるところ。不寛容が行き過ぎて、人種や身分、思想、貧富を理由とした社会的差別につながった史実は世界中で枚挙に暇がありません。
 

「都市化」のデメリット4:「都市」そのものが「仮想化」する

また、遠くない将来には、都市活動のいくらかはデジタル化され、仮想空間で行われるでしょう。すでに建築設計の分野では、業務従事者の多国籍化と空間情報処理技術の進歩を背景に、3次元CADツールを用いたBIM(Building Information Modeling)が諸外国で利用されており、日本語圏でも大手・準大手企業を中心に導入が進んでいます。VR/AR/MR(Mixed Reality)の産業応用も盛んで、2017年4月には小柳建設が、MR端末「HoloLens」(マイクロソフト)を用いて、工事現場で工程管理や3D設計図面をホログラム投影する企画を進めています。 [小柳建設, 2017]

人々の生活意識をみても、内閣府「平成29年版 子供・若者白書」が、日本の若者(15歳から29歳)は「学校」「職場」よりも、「自分の部屋」「インターネット空間」を「自分の居場所」と思う割合が高いとの調査結果を公表しています(インターネット調査、n=6,000)。ソーシャルメディアや位置情報ゲームの国際的な普及はすでに自明のこと。VR/AR/MRの技術革新が進むなか、現実の都市空間にもその影響がないとは言えません。

不動産取引の分野でも、米国で起きたイノベーションが研究・紹介され、いよいよデジタル化が始まりました。不動産テック(リアルエステートテック、Real Estate tech, Retech)と総称されますが、商取引の複雑なステップにそれぞれ最適なICT環境を導入して、伝統的な商慣習を変革しようとの目論見です。仲介業務の簡素化や物件購入者の情報格差低減、売り手と買い手のマッチング効率化などを支援するスタートアップ企業も脚光を浴びています。利害関係者に高齢者が多い業界とされ、ITリテラシーの遅れから難航を噂する声があるものの、国内市場へ外貨を流入させたい国交省内の意向も手伝ってか、外国人への不動産取引サービス提供に際する留意点・課題点の洗い出しとその対応は進んでいるようです。

多様化するニッポンの住宅すごろく

住宅業界では課題認識を共有する見解が出ています。住まいと暮らしビジネス成長戦略研究会(主宰:株式会社タナベ経営)は、1970年代は量の充足が求められた「住まいの時代」。全国の平均世帯人数が初めて3人割れした1990年代は「住まいと暮らしの時代」。そして2010年代は「社会課題解決時代」だと区分します。

その背景には言わずもがな、日本国内の人口動態と生活スタイルの変化があります。高齢者のいる世帯は4割を超え、バリアフリー化のための室内リフォーム経験者も増えています。団塊の世代後期高齢者となる2025年ごろには、日本版CRCC構想の実行による住み替え需要の高まりも予想されるでしょう。加えて、老後の海外移住やルームシェア、シェアハウス、二拠点生活、お試し移住など新しい「住み方」が草の根で広がります。つまり、いわゆる「住宅すごろく」の選択肢が多彩化・多軸化するのでしょう。

そうしたなか、住宅寿命平均30年とも言われる日本型「スクラップ&ビルド」方式が再び問題視され、Life Cycle Cost低減といった新概念も登場。現に空き家率は13.5%を超え、「駅から1km圏内の空き家は48万戸」(国土交通省「空き家等の現状について」)に達する環境下で、住宅リフォーム市場も成熟期を迎えます。

500~1,000万円帯の工事が減って300万円以下が増え、施行目的も「老後の備え」(60代で最多)、「子供の成長」(40代で最多)、「中古住宅の購入に合わせて」(30代で最多)など多様化しているのです。[一般社団法人住宅リフォーム推進協議会, 2016
少子高齢化を見越し、行政も若年層(とりわけ低所得層)が(結婚・出産を見越した)生活資力を養えるよう、住宅政策を強化する姿勢を見せています。例えば、取引トラブルや非効率な手続きを増やさないよう、インスペクションデータ(住宅状況調査情報)や住宅履歴情報、中古マンション売買価格データなどの整備、公開、利用が模索されています。空き家データを活用したオンラインサービスも開設されています。

かたや新築市場の先端トレンドをみても、多様さや偶然性に価値を見出すフレーズが語られています。つまり、日本の住まいは「成熟」に直面しているのだとも言えるでしょうか。

希望のある家、多様性、コモンズの感覚、ポストモダン建築の失速、自然さ、入れ子、破天荒な設計、計画的な破綻、低予算短期間住宅という社会課題、施主との協調、多様な平面計画、集合住宅の市場的画一性、こまやかでローカルな微調整の積上げ、開放感、世の中に開かれた計画、量産型住宅のオルタナティブ

―― 東京建築士会 住宅建築賞 2016、2017年の選評から抜粋


「エネルギー効率化」の導入コストを削減するには

もちろん「成熟」とは、かつての成長ペースが鈍化し、やがて活力が失われていくことも意味します。都市化を経験した日本が「成熟」に直面しているとすれば、エネルギー消費の効率化も重要な課題です。

福島第一原発事故後、低リスク・省エネ意識が高まるなか、資源エネルギー輸入費の高騰を解消すべく、経済産業省の肝いりで、2011年から300億円をかけたEMS(Energy Management System)の実証実験が行われてきました(2015年に終了) [経済産業省資源エネルギー庁, 2017]。その後も対象4都市(横浜市豊田市けいはんな学研都市京都府)、北九州市)は、関連技術・設備の社会実装に向けて、補助金制度を設けるなど共同プロジェクトを続けています。さしずめ、産学官連携による21世紀の「国土強靭化計画」とでも呼ぶべきでしょうか。

けれどもEMS等の取組みは、導入コストの高さや収益モデル設計の難しさが依然として課題です。その普及率も現状1%ほどとまだ低いのが現状。FIT法改正に伴う太陽光バブルの終了後、さらなる逆風として、若年層の雇用劣化と所得低下に伴って、物件・土地所有意向が落ち込み、新築一戸建ての人気に陰りが見えています。2016年にはついに、成約件数で中古住宅が新築住宅を上回りました。太陽光発電など新技術の導入経験は30歳代に多く、これから住宅ローンを組む世代の感覚になじむ住宅商品の開発は、避けて通れない課題です。

こうした市況に対応しようと、スタートアップ企業が既存住宅に「後付け」できる端末、機器、アプリを開発・販売します。レトロフィット、改修型供給といった用語と合わせて注目されています(スマートハウスの論点)。そのスマートハウスを考えるために、次回はまず「スマートシティ」について論じていきたいと思います。

▼次回記事はこちら

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(著作:清水響子+編集部 編集・構成:編集部)