データ流通市場の歩き方

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試される日本の都市計画 #4 究極のスマートシティは「自分の家」?

データ流通ことはじめバナー画像こんにちは。本連載では、データ流通市場に関連する用語や、業界動向を解説しています。現在のテーマは「住まいと安全」。前回見てきたスマートシティの動向から一歩進んで、今回はオフィスビルや住宅といった個々の「建物」をめぐる動向を見てみます。

「暮らし」を支えるオフィスビル

建物をコミュニティと捉え、活性化を目指す動きも見られます。大手デベロッパーが自社運営するオフィスビルで、入居企業向けにビルコンや交流会を企画する事例も目にします。三井不動産は、専門誌「月刊総務」と提携した勉強会、ABCクッキングの協力による料理交流会、フットサル大会などを開催し、入居企業間の交流を促します。 [三井不動産株式会社, 2017]イトーキ「SYNQA」のように、異業種交流型のサテライトオフィスを運営する企業もあります。

高級マンションや大手企業の自社オフィス、先端医療施設などは、もはや「小さな都市」だと言えるほど、敷地内インフラを洗練させています。トヨタの自動車工場には、交通違反を取り締まるパトロールカーが巡回しているとはよく言われる話です(私道内で担当課が運用)。2016年秋に電力事業へ参入した清水建設は、スマートBEMS(Building Energy Management System)を販売するだけでなく、茨城営業所では空調・照明クラウドで施設全域の省エネに成功しています。

社内保育園を設ける企業も一部上場企業を中心に増えていますし、福利厚生のひとつとして、転職求人募集に記載する例も珍しくありません。仮眠室を完備するITベンチャーが数年おきに話題になるなど、「職場で眠れる環境」のニーズも鉄道会社や消防署、医療機関、製造工場、新聞・出版社などに限らないようです。
 

図表12 三井不動産のオフィスビル内トイレに置かれた、テナント従業員向けのメッセージ(2017年5月撮影)

図表12 三井不動産オフィスビル内トイレに置かれた、テナント従業員向けのメッセージ(2017年5月撮影)

 

「ご近所つきあい」「外出」が減っている

自治体も「交流の場づくり」には前向きです。例えば品川区では2016年4月に「町会および自治会の活動活性化の推進に関する条例」を施行し、町会等への加入促進に乗り出しました。 [小川裕夫, 2016]条例を紹介するリーフレットには「町会・自治会はまちの元気の素」とする区長メッセージが添えられ、地域内コミュニケーションのインフラ整備に取り組む姿勢を示します。 [品川区, 2016]

しかし悲しいかな、その意気込みは、若者が「住まい」に対して持つ意識とすれ違っているようにも見えます。「国民生活選好度調査」(2007年)によれば、町内会・自治会への参加頻度は「年に数回程度」「参加していない」が89.3%を占める多数派。「深い近隣関係を望まない人が増えている」「多くの人は困ったときに助け合う関係を望んでいる」と指摘します。

2016年にはマンション内での挨拶禁止のルール化に関する投書記事が賛否を呼び、多数のWebサイトやSNSで議論が白熱しました。「しらべぇ」のアンケート調査によると、なんと1割強が挨拶禁止に「賛成」と回答。特に20代女性と30代男性では、2割程度が「賛成」と答えました。育児世代にとって、マンション住民に対する意識が「ご近所の集まり」から「知らない他人の集団」に変わっているとしたら、ずいぶんとせちがらい結果です。 [小河貴洋, 2016]

現に日本人のうち、都市生活者はこの四半世紀で、「家から外出すること」をしなくなっています。国土交通省平成27年度全国都市交通特性調査」によると、「外出率」は1987年から2015年で約10%減少、「私的目的の一日の移動回数(休日)」は1992年から2015年で約20%減少しました。産学官が「都市」の「まちづくり」に精力を注ぐ一方で、生活者の肌感覚では、じぶんの「住まい」こそが、「小さな都市」だということでしょうか。

住宅設備は、モニタリングからマネジメントへ

企業・自治体が「場づくり」に腐心する一方で、ホームセキュリティやスマート家電など「自宅」のセキュリティ商品開発は盛んです。例えば、セコムの「一戸建て向けサービス」は、侵入関知センサー、煙感知センサー、非常ボタン、フラッシュライトが揃えられます。駆けつけ警備も引き受けてくれ、機器買い取りで初期費用約30万円、月額費用4,500円。レンタルなら初期費用約69,000円、月額費用5,900円です。

スマホアプリとIoT機器を併用して、マイホームを買えない方でも手の届くサービスを開発するベンチャーも登場しています。

Secual社のセキュリティシステムはボタン電池によるセンサーとスマホを使ったもので、初期費用3万円、月額980円から。「leafee Premium」は1つ2,138円の窓センサー「leafee mag(リーフィー・マグ)」を取りつければ、LINEのチャットボット機能を利用して、同じく月額980円で部屋の戸締まりをどこでも確認できます。 [藤井涼, 2017] 取り付けも設定も自分で行えますから、一人暮らしのアパートや空き家管理にも使えそう。月額払いは大変だという方は、貴重品に取り付ける超小型タグが便利です。[鍵や財布に付けておきたい紛失防止タグおすすめ7選, 2017

ちなみに「侵入窃盗」の手口で多いのは「一戸建て」の「無締り(閉め忘れ)」と「(窓の)ガラス破り」ですから(警察庁「平成26, 27年の犯罪情勢(平成28年)」より)、こうしたIoT防犯サービスは理にかなっています。

また「平成26, 27年の犯罪情勢(平成28年)」によれば、「住宅強盗」は10年前と比べて72%減の190件/年。「侵入窃盗」は68.0%減の10万8,558件/年でした(いずれも2015年の認知件数)。増加を続ける「特殊詐欺」(14,151件(前年比+2.4%))や標的型メール(4,046件(前年比+5.6%))、攻撃活動等とみられるセンサー端末へのアクセス(1IPあたり1692.0件(前年比+232.0%))とは対照的(いずれも2016年の認知件数)。
つまるところ日本国内では、リアル空間の治安が着実に改善される一方で、コミュニケーション空間での事故・犯罪が増えているのでしょう。

だれが「安心・安全」のためのデータを作るべきか

もうひとつ厄介なのは、防犯分野は加害者・被害者の双方に配慮を要する事案が多く、統計データを整備しづらい点です。例えば、刑法犯の認知件数全体では「男性:女性=2:1」と男性が多いものの、すり・ひったくりや特殊詐欺、性犯罪では女性被害の認知件数の多い状況が続いています。被害申告率も、「性的事件(18.5%)」は「インターネットオークション詐欺(5.0%)」「消費者詐欺(9.0%)」「不法侵入未遂(18.3%)」に次いで少なく(『平成24年犯罪白書』から)、いわゆる「暗数」の多寡がしばしば問題にあがります。

「暗数」には1.被害者が犯罪だと気づけない、2.警察に届け出ない、3.届け出たが告訴はしない、4.警察が届出を受理しないの4類型があると言われます。 [高島智世, 2009]2000年前後からストーカー規制法の制定や全国的な痴漢防止キャンペーンなどで相談件数、届出率とも改善しているものの、警察の捜査網で検知しきれない事案は生じえますし、個々人の防犯意識を高めたほうがいいことは言うまでもありません。

例えばコーデセブンは、「世界が安全になるために」をコンセプトに、女性向けお守りアプリ「MOLY」を提供するスタートアップ企業です。警察や自治体などの協力で提供された犯罪データ、2ちゃんねるSNSで収集した関連情報をマッシュアップし、これから通ろうとするエリアの危険度をマップで表示したり、危険な場所に近づくとアラートしてくれます。

「つきまとい」など微妙な迷惑行為を含め、警察にはいいたくない、あるいは面倒だけれど、ユーザーが体験した「イヤな思い」を投稿する機能もあり、徐々に利用が増えているそう。今後はカウンセラーや警察等へ直接に連絡する機能も搭載予定。警察当局も、女性被害の実態把握が進むのではと期待しているようです。

同社CEO河合成樹氏によると、犯罪情報の提供に関する警察側の対応は地域差が非常に大きいとか。管理対象とするデータ項目やフォーマットが管轄ごとに異なる、県警ではなく基礎自治体がデータを管理している場合もあるなど、情報流通が地域で閉ざされやすいそうです。「犯罪」は官民データ活用推進基本計画で掲げられた重点8分野には含まれていませんが、身近な「安全・安心」に直結するだけに、関連データのオープン化、標準化が望まれる分野でしょう。

「家事」と「買いもの」が直結する「住まい」

スマート家電も、暮らしに身近なデータ活用を象徴するサービスです。自宅の家電をインターネットに接続させて、機械と機械にデータ通信させることで、まるで「対話」するように「家事」がこなせる仕組みです。

今年4月には、すべての家電をiPhoneで操作できる住宅が、米国カリフォルニア州サンノゼで売り出されて話題になりました。お値段は約1億円とハードルが高いですが、「Siriに「ベッドルームの電気消して」や「2階の暖房をつけて」と話しかけると、いちいちリモコンやスイッチを探したりすることなく様々な操作ができる」のは魅力的です。 [kimi, 2017]

好みに応じて連携する家電を選べるところがポイントで、Appleのホームアプリケーション「HomeKit」には、テレビ、照明、スイッチ、センサー、コンセント、加湿器など、2017年5月現在14ジャンル・約120の製品が対応。 [Apple Inc.]日本のApple Storeサイトでは、Philips, Nanoleafなどが提供する15種類のアクセサリが購入できます。

ショッピングをリードするのはAmazonです。先ごろ日本上陸した「Amazon Dash Button」は、実質無料・使い捨ての専用ボタンを壁に貼りつければ、「家事」をしながら「買いもの」ができる端末です。2017年5月現在、洗剤、カミソリや歯ブラシ、シャンプー、ペット用品、食品・飲料とベビー用紙おむつの42ブランド700品目をラインナップ。1プッシュでボタンに登録した消耗品が発注でき、ミネラルウオーターや炭酸水、洗濯用洗剤などかさばる商品は人気が高いようです。 [日経トレンディ, 2017]

「持ち家」がなくても、スマートに

さらに、AmazonスマートスピーカーAmazon Echo」は、AmazonスターバックスUberなどへの口頭注文ができるほか、音楽を再生したり、質問に応じた検索結果を音声で回答してくれます。 [日経トレンディ, 2017]サービスプラットフォームである「Alexa」は、自社端末だけでなくFord、BMW、GE、華為技術などが手がける700のデバイスに搭載されており、APIエコノミー形成の王道をひた走っています。 [Miyata, 2017]

対する「Google Home」は、検索サービスや多言語翻訳で培った音声認識自然言語処理の技術を投じて、話者ごとの関係(娘「ママ」と父「ママ」を聞き分ける)を考慮した質問応答ができると話題です。

アジア勢では、LINE「WAVE」が日本向けに2017年内の発売を決定。「LINE Music」を筆頭に、トヨタ自動車ファミリーマート出前館内閣府マイナンバー)との連携を発表しました。すでにLINE本体とYahoo!ジャパン「My Things」との連携は可能で、 [日本経済新聞, 2017] 「APIエコノミーとはなぜそう呼ばれたか ―用法と事例―」で取り上げたころから、提供チャンネルも53に増えています。同社では開発者向けIoTプラットフォーム「myThings Developers」正式版も提供を始めました。

国際プラットフォームの勢力図も変わるのか

もちろん期待と現実にはギャップがあり、「スイッチは使わなくなった」「スマートホームって、バカなの?」「この技術は万能ではない」「ルンバが一転「お客様のデータは売りません!」ただし無償共有の可能性は否定せず」と賛否両論がにぎやか。端末も、音声認識も、背後にあるデータ処理も、プライバシーへの配慮も、企業ごとに得手・不得手があり、技術開発の途上です。

けれども、少なくとも今後に起きるのは、テレビリモコン、照明スイッチ、家庭用ラジオ、室内電話などの「手で動かす道具(コントローラー)」が、「声で操る家具(アシスタント)」に集約される流れ。そしてもうひとつは、端末につながる「世帯」のデータが、普及率の高いIDで本人認証されたうえで、途絶えることなく収集-記録される流れです。日本企業がプライバシー保護の意見調整で苦労しているうちに、国際プラットフォーマーが事実上の「情報銀行」の機能と役割を担ってしまう。そんな悲観的な見通しも成り立ちます。

「住まい」のあらゆる「モノ」が情報化しうる

そう遠くない将来、一般生活者の主流デバイススマートフォンから次の端末へと移行するとき、現在の国際プラットフォーマー間の勢力図も塗り替わるのでしょう。IoTがバズワードとなり、ユビキタスコンピューティングがいよいよ夢物語でなくなったいま、「住まい」を取り巻くあらゆる「モノ」が、情報化による付加価値を得る可能性を秘めているのです。

例えば衣類。ZOZOTOWNUNITED ARROWSなどファッションECサイトはサイズ違いなどの返品ができますし、洋服の青山やGAP、三越伊勢丹などがバーチャル試着を展開していますが、さらにもしも自宅のクローゼットがスマート化されたら……と想像するのは楽しいもの。天候、今日のラッキーカラーや見込まれる移動量、食事や仕事の相手と前回会ったとき着ていた服といったデータに基づいて、最適なコーディネイトを提案してくれたり、不足アイテムを自動で取り寄せてくれたりする日が来るかもしれません。このテーマは、次回掲載「暮らしと家庭」で詳しく扱います(予定)。

図表13

さて、「住まいと安全」をテーマにした記事も、次回で最後の予定です。次回は、都市計画において忘れがちな視点を指摘したのちに、街での未来を考えてみます。

▼次回記事はこちら

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(著作:清水響子+編集部 編集・構成:編集部)