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試される日本の都市計画 #5 あなたの「住まい」はどんな「街」?

データ流通ことはじめバナー画像こんにちは。本連載では、データ流通市場に関連する用語や、業界動向を解説しています。第9回以降、「住まいと安全」をテーマに筆を進めてきました。今回はそのまとめとして、都市計画において忘れがちな視点を確認しつつ、都市の未来を考えてみます。

あなたの「街」のユーザー・ペルソナは?──「日本人の高齢者」以外にも目を向けて

最後に、忘れがちな視点があります。「その街に暮らすのは誰か?」ということです。よくある論点は、少子高齢化と都市の再開発が対になって語られるばかりに、シルバー民主主義の弊害が起きるのでは、というもの。
若年層・単身者や(晩婚化する)子育て世代の生活意識との溝が指摘されるほか、SOGI(Sexual Orientation & Gender Identity)への配慮、外国人観光客・労働者の生活環境、移民2世・3世の政治参加などが論題に挙げられます。行政担当者が、多岐に渡る当事者ニーズを集めきれていない実状もあるようです。

象徴的な例をとりあげましょう。2020年(予定)の東京五輪に向けて、都心部ではあちこちでホームドアやエスカレーター、エレベーターなどの設置・改修工事が進みます。国土交通省も「高齢者、障害者等の円滑な移動等に配慮した建築設計標準」を公表しています。このWebサイトがアクセシブルでないのが残念ですが……、「腰掛便座、手すり等が適切に配置されているか」といった詳細なバリアフリー基準を定めます。 [国土交通省, 2016]ただ、車椅子ユーザーにとっては「トイレに手すりがある」だけでは不十分。「何センチの高さにあるか」まで分からないと、「自分が使える」と判断できないそうです。

他にも、毎日新聞社会福祉法人日本盲人会連合(日盲連)の共同アンケート調査(2016年)によると、回答者(n=222)の31.5%が駅ホームからの転落経験があり、そのうち51名は「いつも利用している駅」で、11名は「最近~5年以内」に事故に遭っています。 [社会福祉法人日本盲人会連合, 2017] ホームドアの設置が強く要望されていますが、課題は数億~数十億円といわれる設置コスト。関係企業が低コストで設置できるホームドアの実証実験を進めるものの、2017年3月時点の設置数は665駅/1,0495駅と普及途上。人身事故や飛び込み自殺を防ぐためにも、技術革新が期待される分野です。

アクセシブルな都市はどこにあるのでしょう? EU圏内の先進都市を評価する「Access City Award 2017」(2010年~) [European Commission, 2017]によると、英国北イングランドの古都・チェスター(英)が最高評価。中世の町並みを車椅子で楽しめる「The Rows」、ホームページやマップ [Cheshire West & Chester Council]を通じたバリアフリー情報の提供などが評価されています。ほかにはロッテルダム(蘭)、ユールマラ(ラトビア)といった都市名が上がっています。

日本の都市はどうでしょうか。車椅子の観光客向け情報サイト「wheelchairtraveling.com」によると、トイレや浴室、エレベーターの優先ボタン、交通機関などは比較的高評価ながら、「(病院式の)手動の車椅子を多くの人が使っている」ので、「(ホテルの室内やレストランなどでは)大型の車椅子は操縦しづらいか、まったく身動きが取れなくなることもある」とのこと。

他には、NPO法人が運営する、障害を持つ外国人旅行者向け観光情報サイト「Japan Accessible Tourism Center」(2011年~)も参考になるでしょう。 [特定非営利活動法人 Japan Accessible Tourism Center, 日付不明]また、国連のITアクセシビリティに関する国際組織G3ictが、普及啓発を進める一環として、都市政策立案のためのツールキット「Smart Cities for All Toolkit」を提供します。Microsoft、World Enabledとの協同プロジェクトで、次のように幅広いテーマの標準、ポリシー、事例を参照できます。 [SC4A., 2017]

Guide to Implementing Priority ICT Accessibility Standards
Guide to Adopting an ICT Accessibility Procurement Policy
Communicating the Case for Stronger Commitment to Digital Inclusion in Cities
Database of Solutions for Digital Inclusion in Cities

なかでも「Smart Cities & Digital Inclusion」は、機械判読性の高いコンテンツ提供や遠隔地への配慮、個人の障害に合った支援技術(Assistive Technology)など、具体的な施策に言及があります。 [Dr. Victor Santiago Pneda, 2016]
2008年に国連総会で発効した「障害者の権利に関する条約」には、「他の者との平等を基礎として、都市及び農村の双方において、物理的環境、輸送機関、情報通信(情報通信機器及び情報通信システムを含む。)並びに公衆に開放され、又は提供される他の施設及びサービスを利用する機会」と明記されています。

(遅ればせながら)2014年に批准した日本でも、ドイツのNPOによる「Wheelmap.org」や三鷹市が運営する「みたかバリアフリーガイドおでかけ情報」、G3ictとの提携で注目されたスマホアプリ「Bmaps」など、障害者の外出を支援する試みが着実に進んでいます。全国各地の都市政策が、世界に誇れる水準に達することを願うばかりです。 [外務省資料より, 2014]

あなたの「住まい」はどんな街?──「都市化」の未来とその類型

ここまでみてきたように、「住む人」の暮らし方によって、「都市」の将来は無数に変わります。今後はどういった展望がありうるでしょうか。大まかな見通しを得るために、考え方の枠組みを作ってみましょう。
都市政策を立案するとき、その方針には「集積化/分散化」「特化/汎化」の2軸があると考えます。すると図表14のように、4類型で整理できます。

例えば「(A)集積化and特化」は、ある性質に特化した施設・敷地を集積する動き。学術都市経済特区など、得意分野に重点を置く都市計画はこの類型でしょう。左下の「(D)分散化and汎化」は、個人の「住まい」を「都市化」する動き。スマートホームやスマート家電は、この方針に与する潮流だと理解できます。

続いて、4類型それぞれの都市でどのように「情報化」が進展しうるかを考えます(図表15)。例えば、ショッピングモールやサテライトオフィスのように、「(B)機能特化した設備を都市圏外にも分散」させるとすれば、各拠点間の移動効率が重要であることは言うまでもありません。自動運転やテレマティクス・サービス、次世代燃料自動車などの「モビリティ」が、注力すべき技術分野だと目されるでしょう。

 

図表14、図表15



より詳細に都市の機能を考えることも有益です。例えば、都市には一般に、居住エリア(暮らす)/就業エリア(働く)/歓楽エリア(憩う)/研究エリア(学ぶ・調べる)があるとしましょう。この4機能を都市政策の4類型(図表14)と掛け合わせると、それぞれに都市開発のキーワードが見通しよく整理できます(図表16)。

図表 16 都市計画における4方針×4機能

さらに踏み込んで「その街に暮らすのは誰か?」と考えると、ようやく住民の具体的な人物像や関心・意向を分析の俎上に乗せられます(図表17)。例えば、「二拠点生活」を送りたい「30-40代」の「住まい」への関心は、個々人の社会的属性や、住居に求める機能によって差があるでしょう。

図表 17 「二拠点生活」を送る「30-40代」の「住まい」への関心(イメージ)

ここまで概観したように、「住まい」という語は、多様な人々が幅広い期待と現実を語るときに用いられます。関係者や論点も様々でありながら、あらゆる分野がデータを生み出し、また情報化される可能性があります。他のテーマと比べても、より壮大で、より綿密な「想像力」が求められます。実は不足しがちなのは、「都市が生み出す新たなデータ」だけではなく、「都市とはどうあるべきかを考えるデータ」なのかもしれません。あなたの「住まい」はどうでしょうか。別の場所で暮らす誰かにとって、将来そこを訪れる誰かにとって、住んでみたいと思えるでしょうか。


参考文献リスト

「住まいと安全」をテーマにした第9回〜第12回までの参考文献リストはこちらです。

 

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(著作:清水響子+編集部 編集・構成:編集部)