データ流通市場の歩き方

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行政オープンデータの歴史に学ぶ、データ公開の制度と実践 #1 オープンデータの定義と国際史

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こんにちは。本連載では、データ流通市場に関連する用語や、業界動向を解説しています。今回着目するのは、政府のオープンデータ運動です。これまでの歴史を振り返りながら、データ公開の課題とその解決に向けた工夫を見てみましょう。

「うちのデータを公開して、何の意味があるの?」

そんなふうに聞かれたら、政府の事例を紹介してみましょう。

オープンデータ運動は、国際組織や各国政府などが現地の市民と協力する文化・社会運動として、すでに10年以上の歴史を有します。ともすれば「足取りが遅い」「発想が固い」と言われがちですが、その地道な足跡をふり返ると、企業や個人がデータを世間へ広めたいと考えたとき、どんな不安や課題があって、制度や組織をどう工夫すれば上手く行くかを学べる、先行事例の宝庫だと気づかされます。

オープンデータとは何か?

「オープンである」とは、どのような状態であるべきか? 

データの定義には諸説ありますが、もっとも寛容な考え方を採用するなら、「どんな目的のためでも制約なしに、誰もが自由に利用、再利用、再配布できるのであれば、そのデータは「オープン」であると考えてよい(Data are considered to be “open” if anyone can freely use, re-use and redistribute them, for any purpose, without restrictions.)」と言えるでしょう。 [The World Bank]

もちろん、データの公開状態や形式による格付けもあります。なかでも「5 Starデータモデル」は有名で、下図の通り、利用、再利用、再配布が行いやすい順に5段階の区分を示しています。

図1:5Starデータモデル

図1:5Starデータモデル

「オープンにする」とは、何をすることか?

そのせいか、「(csvExcelなど)機械判読可能なデータでないと使いづらい!」との声も少なくありません。一方で、オープンデータを支援する国際団体が、「最も大切なこと」の1つとして次のように助言しています。

 

利用できる、そしてアクセスできる
データ全体を丸ごと使えないといけないし、再作成に必要以上のコストがかかってはいけない。望ましいのは、インターネット経由でダウンロードできるようにすることだ。また、データは使いやすく変更可能な形式で存在しなければならない。

──「OPEN DATA HANDBOOK」(Open Knowledge International)から

 

「インターネット経由でダウンロードできるようにすること」は「望ましい」とするところが意外ですね。この理解に立てば、「営利目的も含めた二次利用が可能な利用ルールで公開された、機械判読に適したデータ形式のデータ」 [一般社団法人 オープン&ビッグデータ活用・地方創生推進機構, 2016]ではなくても、個別の開示請求に基づいて提供されるデータだって、「非公開ではない」という意味で「オープンな」データでしょう。

さらには、こうした動きをひとつの文化・社会運動であると捉えて、「特定のデータが、一切の著作権、特許などの制御メカニズムの制限なしで、全ての人が望むように利用・再掲載できるような形で入手できるべきであるというアイデア」 [オープンデータ, 日付不明]であるとか、「日々生成・蓄積されるデータを共有資産として有効活用しようという営み」といった説明 [柏崎吉一, 2017]もなされます。

複数の見解が──当初の理念や原理的な理解、一般的な定義、簡易な解釈などと──並存しているのです。これは、「オープンデータ」という語が浅からぬ歴史を持ち、一般に広く知られ、公に語られ始めたことの裏返しです。その歴史を大まかにふり返ってみましょう。

オープンデータ運動の国際史

北西欧から米国へ、そして世界へ

図 2オープンデータ化に関する動き(Wikipedia等を参考に筆者が整理)

図 2オープンデータ化に関する動き(Wikipedia等を参考に筆者が整理)

オープンデータという言葉を各国政府が用い、本格的に取組みを推進し始めたのは2009年のことです。その源流は米国と英国の公的プログラムにあります。2004年にケンブリッジ大学が、各国のオープンデータサイトを集約・公開するOpen Knowledge Internationalを始めました(2016年12月現在で520サイト)。続いて国連が2008年にun.data.orgを、世界銀行は2010年にWorld Bank Open Dataを開設し、各国政府のデータ公開を牽引して来ました。 [Data Portals, 日付不明]

さらにニュージーランドノルウェーなど北欧各国が政府公式のオープンデータサイトを開設するなど、この動きは2009-2010年にひとつのピークを迎えます。そして2011-2012年には東アジア、南北アメリカ、アフリカ、西欧各国が相次いで参画。この盛り上がりを受け、2013年のG8サミット(主要8カ国首脳会議)では、キャメロン英国首相の主導により「オープンデータ憲章」が採択されました。その頃から日本の取組みも加速します。

まずは国連とその関連組織の施策を詳しく見て行きましょう。企業や自治体が外部にデータを提供するとき、どういった制度や組織を作ればよいのか参考になるからです。

国際連合は何のために、どう計画して来たか

図 3 国連・関係機関のオープンデータサイト

図 3 国連・関係機関のオープンデータサイト

ご存知の通り、国際連合は、経済・社会に関する国際協力や安全保障を目標に活動しています。その実現には、企業活動と同じく、適切なデータに基づく現状把握と計画管理が欠かせないのでしょう。すでに国連開発計画「UNDP Projects」では、地域や開発テーマ(Responsive Institutions、Climate Change & Disastar Resilienceなど)の予算出所ごとに、(国連開発計画、EC、国別の政府予算など)各プロジェクトの予算消化状況等を地図で表示できます。 [林雅之, 2013]

2000年9月に国連は、21世紀の国際社会の目標として「国連ミレニアム宣言」を採択しました。また、この宣言を実行する目標として「ミレニアム開発目標(Millennium Development Goals: MDGs)」を策定。国際社会が2015年までに達成すべき8つの目標と21のターゲット、60の指標が設定されました。

そして、15年後。MDGsはさらに、「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ」(2015年)の採択に伴って、「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals: SDGs)」として対象を拡大。新たに17の目標、169のターゲット、230の指標が設定されました。MDGsSDGsの開発目標を見ると、国連がどんなテーマを重視し、どういった指標で計画管理を進めているのかよく分かります。

図 4  MDGsとSDGsの開発目標

図 4  MDGsSDGsの開発目標

 

もっとも、国連が目指すモニタリング体制の確立には、まだまだ時間がかかりそうです。2015年の調査では、「MDGs及びSDGsの指標が算出可能」と答えた国は、最も回答が多かった「G.4 公平な教育機会」関連でも8割程度にとどまります。「G14. 海洋、海洋資源の確保」などは、特にデータが不充分な領域のようです。 [Statical Commission, 2015]

図 5 UNSD第46回検討会資料「加盟国の進捗状況に関する国際アンケート調査結果」から抜粋

図 5 UNSD第46回検討会資料「加盟国の進捗状況に関する国際アンケート調査結果」から抜粋

 

次回記事では、いよいよ日本におけるオープンデータ推進運動に迫ります。政府の推進戦略から、実際にどのようなデータがどこで公開されているのか、日本のオープンデータの課題まで幅広くご紹介する予定です。どうぞご期待ください。

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(著作:清水響子+編集部 編集・構成:編集部)