データ流通市場の歩き方

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行政オープンデータの歴史に学ぶ、データ公開の制度と実践 #4 オープンデータの未来

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こんにちは。本連載では、データ流通市場に関連する用語や、業界動向を解説しています。

行政オープンデータをテーマにしたシリーズも、この記事がラストです。オープンデータの今後の展望として、企業と行政の連携や、産学連携についての話題を取り上げてみましょう。

公的組織のデータ公開も進む

本シリーズではここまで、主に行政の取り組みを書いてきましたが、今後は企業が持つデータの公開も進むと期待されます。

英国放送協会(BBC)では、2006年から番組データの整備・活用に取り組み、番組内容を記述する用語やデータ構造を定義して、番組関連情報の全てを階層構造化。例えば「BBC Music」では、アーティストごとの出演番組やニュース記事、またバイオグラフィ(Wikipediaから取得)、公式SNSなどを一覧できます。 [宮崎勝、浦川真, 2016] NHKでも、番組情報のLinked Data化を推進します(同文献から)。会員制パーソナル健康情報「マイ健康サービス」や教育機関向けウェブサイト「NHK for School」など、番組データを活用したコンテンツ配信が始まっています。

企業と政府のデータ連携が当たり前に

データとデータを組み合わせる事例もあります。総務省リクルート、全国100の自治体が集った「都市の魅力向上プロジェクト」では、自治体が持つオープンデータと、個人が実現したい暮らし方のマッチングを目指します。「とことん家族サービス型」「これぞ都会はセレブ型」といったライフスタイル別の指標でお勧めの街情報を知らせてくれ、住民にとってもわかりやすい活用事例といえそうです。 [リクルート, 2016]

産学連携によるデータ融合も活発に

産学連携による実証実験で、「新たにデータを集める」取り組みも増えています。BODIC.orgの実証実験では、九州大学内に設置されたセンサー端末でデータを収集し、食堂や図書館の混雑状況をスマホアプリにリアルタイム配信します。 [高野茂] また、千葉市市原市室蘭市、足立区は東京大学と共同で、公用車に取り付けたスマホで道路の損傷を自動撮影、機械学習で対策の優先順位を判断する実証実験を開始。これまで市民の協力で進めてきた「ちばレポ(ちば市民協働レポート)」の次世代版で、「自然と溜まる」データと「意識して貯める」データとの融合が期待できます。 [日本経済新聞, 2017] 写マップあつぎがいらい生物調査隊やちば減災プロジェクトでは、対策が必要な外来種の発生状況や気象・地震被害状況などを市民に投稿してもらい、自治体職員が対策レポートを公開しています。センシングは、降雪量や風速などの気象情報に基づく行政サービスの資源配分、コスト最適化に資するデータとして期待されます。

国内でも進む法整備

こうした機運を背景に、国内の法整備も進みます。2016年には2つの注目トピックがありました。1つは、企業立地促進法の改正です。産業構造審議会が12月14日に、企業立地促進法を「地域未来投資促進法」に改正し、企業が都道府県などに公共データ開示を要求できるようにする方針を打ち出し、2017年2月28日閣議決定されました。 [経済産業省, 2017]第193回通常国会で法改正が実現すると、都道府県はデータ開示の努力義務を負うことになり、オープン化に弾みがつくと期待されています。 [日本経済新聞, 2016]  鶴保IT政策担当大臣の「IT戦略本部の『官民データ活用戦略推進会議』が司令塔となり、オープンデータを徹底する」との発言にも、強い意気込みが感じられます。 [首相官邸, 2016]

民間投資も活発化する?

もう1つは、官民データ利活用推進法 [官民データ活用推進基本法, 2016]です。起案から公布まで20日というスピード審議で成立しました。同法では、政府機関及び都道府県に、官民データ活用基本計画の策定を義務付け、民間と市区町村にも計画策定を促しています。各地の担当者が草の根で進めてきた取組みが、法的にも後押しされたのです。経済界からの要請も同法の成立を後押ししました(「データ利活用推進のための環境整備を求める~Society 5.0の実現に向けて~」経団連))。人工知能(AI)、IoT、クラウド・コンピューティング・サービスも、法律として初めて同法のなかで定義されました。 [官民データ活用推進基本法, 2016]

政治の透明性確保へ向けて

もっとも、こうした取り組みはビジネス活用に傾斜していて、政治の「透明性の改善、参加の促進、協働の促進といった観点が抜け落ちている」との指摘もあります。 [西田亮介, 2016] 政府の透明性や資産公開、情報へのアクセスを監査する国際活動が参考になります。「Open Government Partnership」では、国ごとの行動計画(OGP National Action Plan)を策定し、計画に対する達成度を公開しています(2016年時点で75カ国が加盟)。 [Open Government Parntership, 2011]

2016年には「Anti-Corruption Summit」(腐敗対策サミット)が開かれ、参加42カ国が600以上にのぼるコミットメントを提示。同年11月にはさっそく「ANTI-CORRUPTION SUMMIT PLEDGES AND OGP NATIONAL ACTION PLANS: HOW DO THEY STACK UP?」で経過報告を公開。例えばケニアは達成度が7/18個、英国は6/21個、ノルウェーは5/21個を達成しました。他方で行動計画の策定に至らなかった国も、隠すことなく公開されています。 [Tranceparency International, 2016]

公開・活用が期待されるデータは?

それでは今後、どのようなデータが公開されると良いでしょうか。例えば、電子行政オープンデータ実務者会議では、「【オープンデータ2.0】強化分野及びオープンデータの候補例」と題して「①1億総活躍社会の実現関連」「②2020年東京オリンピックパラリンピック関連」の別に、強化分野とオープンデータの候補合計50例を例示しています。

次はそれらのデータをどう収集し、どう活用するのか、現実的な計画へ落とし込む工夫が求められるでしょう。候補となるデータを誰が持つのか突き止め、提供を交渉し、それを求める人に便利なかたちで提供するには、相当数の利害調整を行わなくてはなりません。

どんなデータが利用できるのか。データの持ち主(オーナー)(縦軸)と集め方(横軸)を軸に整理してみます。

図 17 データの種類(縦軸に公共性の高さ、横軸に進捗とデータの集まり方)

図 17 データの種類(縦軸に公共性の高さ、横軸に進捗とデータの集まり方)

 

すでに公開・活用されているデータ

すでにある基本情報

データオーナー自身の基本情報は、すでに集約・蓄積が進んでいます。政府機関であれば根拠法や施設情報、自治体の条例や組織情報、施設情報、企業の法人ナンバーや会社登記などが該当するでしょう。他のデータを統合するときの「主キー」や「名寄せ軸」に使えますので、公開及び保護ルール、語彙やデータ形式の統一など、基盤整備や使い勝手の改善が急がれる分野です。

自身で作る計画・実績

事業活動を通じて、自身で作るデータも、一部統計化して公開されています。予算・決算や調達情報などが該当します。すでに、上場企業の決算情報は東京証券取引所TDnet」で誰でも過去5年分を取得できます。他にも、2017年1月19日にリニューアルした経済産業省「法人インフォメーション」を使えば、企業ごとの納税、助成金などのデータをWeb APIを通じて取得できます。日本経済新聞社のように、自然言語処理技術を用いた記事の自動作成に用いる例も現れました。 [井上理, 2017]データ処理の高度化が期待される分野です。

周りから集める統計調査・公開資料

国勢調査や各種統計、企業によるアンケート調査、またその集計データなど、外部調査で集まったデータは、そもそも、何らかの形で(調査結果に基づくサービスやコンテンツなどを含む)、第三者に提供する前提で作られたデータです。権利処理さえ整えば、企業間データ取引でも流通が期待される分野です。これまでにも、自主調査や受託調査を抜粋したり、提供時期を遅らせたり(embargo)して販売する例はありましたが、必ずしも調査会社を経由しない商流も出現するでしょう。

公開・活用が期待されるデータ

自然と溜まる活動履歴

日常の企業活動、行政執務、個人生活のなかで、自然と溜まるデータも活用しやすいでしょう。言わずもがな、センサーやカメラを通じて収集するデータの活用が期待されています。やみくもに収集するのではなく、期待される成果、想定される分析、実現できる施策などをよく吟味して、収集対象と収集方法を見直すことが求められます。

意識して貯める機器ログ・記録

運動量や食事内容、服薬履歴、スマホ位置情報などは、意識して貯めることで価値を持ちうるデータです。もちろんその大半は、メモ書きやSNS投稿、個別の苦情・相談など些細な記録の積み重ねに過ぎません。けれども、私的なメディアに閉じ込められたデータを、データオーナーが自由に移動できるようになれば、別のデータオーナーにとっては思わぬ気づきや見落としが発見できるようになるでしょう。早くも総務省では、有識者会議による提言を受け、「家計調査」に加わる新たな統計として、民間統計やクレジットカード利用、レジの売上、EC利用などを用いた「消費動向指数」を作成する予定だと報じられています。

まとめに代えて──CIVICTECHへの切実な期待

オープンデータ推進活動は、国境を越えた社会活動として、データ活用のアイデアを、データオーナーや組織管理者、研究者やアプリ開発者、コンテンツプロバイダー、一般市民それぞれの視点で、どのデータをどうオープン化し何と組み合わせ、どのように公開すべきなのか、幅広く意見を集め、反映させながら進んでいます。

こうした動きは「CivicTech」とも呼ばれます。日本では、東日本大震災をきっかけに、Code for Japanなどの市民活動が立ち上がり、各地でアイデアソンや事例紹介が行われています。

そのほとんどは法人化もしていないボランタリーな集まりです。活動が盛んな背景には、ソーシャルメディアなどが全国へ普及したことに加え、市民の危機感が潜んでいるのかもしれません。震災からの復興、人口減による行政コストの維持困難、地域コミュニティや都市インフラの衰弱など、市民が自ら行政に参加しないとその地域の暮らしが守れなくなるような、切実な課題があるからです。

毎年3月に開催されるインターナショナル・オープンデータ・デイに合わせて、世界では250以上、日本では60以上の地域で、様々なアイデアソンやハッカソンが行われます。 [Open Knowledge Japan, 2017]他にも年間を通じて様々なシビックテックイベントが開催されており、多くはFacebookイベントやPeatixを活用して広く告知されています。ほとんどのイベントは誰でも参加できますから、ぜひ足を運んで、一度その空気を感じてみてはいかがでしょうか。

参考文献

連載15〜18回の参考文献リストは、こちらに掲載しています。

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(著作:清水響子+編集部 編集・構成:編集部)