データ流通市場の歩き方

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ひとりで学べる育児ハックとEdTechの現在(序論)

データ流通ことはじめバナー画像こんにちは。本連載では、データ流通市場に関連する用語や、業界動向を解説しています。今回のテーマは「出産・子育て・教育」です。

育児・教育界におけるデータ活用の試みには、他分野にも役立つ学びが詰まっています。教育とは、どんな人でも必ず体験する、もっとも身近な「情報流通の仕組み」に他ならないのです。そんな教育の仕組みが今、少しずつ変わろうとしています。その来歴を辿ると、情報技術(テクノロジー)の理想と現実の溝を埋めようと苦心する、実務現場の努力が見えてきます。

育児・教育の場は、情報技術(テクノロジー)によってどう進歩したのでしょうか?
この問いに答えるために、同分野でどういったデータ活用が行われてきたかを見ていきます。キーワードは「育児ハック」と「EdTech」に決めました。それが苦労の始まりになるとは、編集部の誰も思っていませんでした……。

育児ハックって何? EDTECHっていつから言うの?

まずはキーワードの用例を確かめていきましょう。日々の暮らしや仕事を技術・工夫で改善することを、「〇〇ハック」とか「××テック」と呼ぶことがあります。その発祥はいざ知らず、古くは「財テク(zaitech)」が1986年にオックスフォード英語辞典に収録されていますし、情報産業界でも派生した用語が無数に生み出されています。今では「【〇〇×テク】って何個知ってる?テクノロジーと繋がった用語集」「金融に教育に…ITとともに生む革新「〇〇テック」を一挙紹介!」「FinTechに続く、次の〇〇Techとは?」といった記事がいくつも書かれるほど。

「育児ハック」はと言うと、日本で見られる古い用例は2009年。ライフハック系ブロガー堀正岳氏がTwitter出産報告をしたとき、ブロガー仲間がお祝いで、「(ライフハックのように)育児(を)ハック(≒便利にする記事の執筆)に期待」などと投稿しています。

やがてこの言葉はブロガーたちに少しずつ広まって、どうやら2011年ごろには定着。子育てHow toブログを書くワーキングマザーや、Evernoteで育児記録をつける父親の姿が見られます。Twitterハッシュタグ「#育児ハック」を付けて、効率的な育児の工夫をみんなでシェアする文化も、すでにこの頃には萌芽があるよう。

さらに遡ると、早くも2005年には「Parent Hacks」と題する育児の工夫をまとめたブログが米国で始まっていました(2016年に書籍化)。オライリー社が2004年9月にサン・ディエゴで催したカンファレンスで、ジャーナリストのダニー・オブライエンが、(おそらく)世界で初めて「ライフハック:超-生産的なアルファ・ギークの秘密の技術(Life Hacks: Tech Secrets of Overprolific Alpha Geeks)」と題した講演を行ってから1年後のことでした。

対してEdTechは、その字面の通り、EducationとTechnologyを合体させた造語です。日本では2004年、2005年、2008年、2010年、2011年に注目されたあと、2013年に入ってようやく人口に膾炙し始めたようです(Googleトレンドで「EdTech」を検索)。Googleニュース検索の推移を見ると、2016年春の盛り上がりが大きいですね。

図表1:「EdTech」に関するウェブ検索の盛り上がり

 

図表2:「EdTech」に関するニュース報道の活性化


原語の初出はよく分からず、厳密な定義はもはや不可能。「教育分野でテクノロジーを使った何か」なら、なんでも「EdTech」と呼びうるほどの曖昧な用語になっています。

もはや誰もが好き好きに、自分の知っている情報技術(Technology)を、自分が知っている教育の場(Education)へ導入することを「EdTech」と呼ぶんでいるのでは? と突っ込みたくなるくらいに。

「教育の情報化」の50年史

図表3:キーワード整理:ライフステージ別にみる、教育分野の情報技術革新


関連用語もたくさんあります。教育分野の技術革新に関するキーワードを、現代人のライフステージごとにまとめたのが冒頭の図表です。ステージをまたがる用語があるのは当然ですが、調べれば調べるほどキリがありませんでした。

それもそのはずで、「我が国における学力向上を目指したICT活用の系譜」を読むと、なんと1970年にはすでに、OECD経済協力開発機構)で「教育におけるコンピュータ利用に関する国際セミナー」が行われていました。

当時は情報技術といっても8ビットパソコンや日本語ワープロが最先端の時代。筑波大学の研究チームが、茨城県桜村立竹園東小学校の生徒に、コンピュータで算数と理科を教える実験をしています。CAI(Computer Assisted Instruction)と呼び方こそ違いますが、半世紀も前に情報技術を用いた個別学習に挑戦した例があるのは驚くべきことです(「学校におけるデジタルメディアの変遷」より)。

そして1980年に入り、「教育のマイクロコンピュータの利用について」といった議論が行われるようになると、「情報教育」「教育の情報化」など馴染み深い言葉が使われ始めます(「日本の教育情報化の実態調査と歴史的変遷」)。

これらは年を追うにつれ「ニューメディア教育」「学校インターネット」「教育ICT」「e-ラーニング」といった言葉に置き換わり、生涯教育や社員のキャリア教育、教師自身の情報教育、親のITリテラシー向上といった論点も加わります。近年では「Education Data Mining」「アダプティブラーニング」「HRテック」といったデータ活用も耳目を集めます。「アクティブラーニング」「STEM教育」なども、賛否両論かまびすしい隣接テーマでしょう。

何から学ぶべきなの?

事例やニュース、資料を集めながら、編集部は途方に暮れました。私たちは「育児・教育の場は、情報技術(テクノロジー)によってどう進歩したのか?」を知って、他の業界でも広く参考になるような気づきを得たいのです。「何が流行りのキーワードなのか?」を学びたいわけでも、「どの企業が一押しなのか?」を探りたいわけでも、「どの学校が先進的なのか?」を突き止めたいわけでもないのです。

けれども、人が生まれてから老いるまでには多くの教育の機会があります。「教える、育てる」という営みは、誰にとっても身近で、切実なもの。「こうすれば、すべて上手く行く」なんて見事な説明が、そう簡単に見つかるはずがないのです。

どのように整理したものか。事例から技術要素を抽出しよう、発達段階ごとにまとめたほうがいい、そもそも学校と塾と通信教育を別個に分けてしまっていいのか――私たちは、あれこれ議論を交わしました。

どうやって使えばいいの?

そうして考えた末に、いっそ「私たちが新しい情報技術(テクノロジー)を使い慣れる手順」に沿って、時系列にまとめてみてはどうかと思い立ちました。つまりはこういう分類です。

  1. まずは、紙からデジタルへ(複写する、複製する)
  2. 閲覧端末の導入、専用コンテンツの配信
  3. ソーシャルメディア化、スマホアプリ対応
  4. 教材のカスタマイズ、パーソナライズ
  5. 大規模データ分析で学べること

思い出してみてください。みなさんのご家庭に初めてテレビがやってきた日のこと、自分の携帯電話を持った日のこと、新型のゲーム機を買った日のこと、スマートフォンを使い始めた日のことを。

ほとんどの人が、初めは「どうやって使うの?」「そもそも、何これ?」と詳しい人に聞くところから始めて、まずは簡単なことから試してみて、だんだん複雑な操作に慣れていき、家族や友達と一緒に楽しむようになって、いつの間にか良し悪しや好き嫌いが言えるようになり、いつしか遠目で流行り廃りを見守るようになったのではないでしょうか。

だとしたら、この流れをなぞるようにして、最近話題の事例を仕分けていけば、どのサービスがどんな文脈で作られているのか分かりやすそうだと考えたのです。

ちなみに、教育の歴史が進むにつれ、「情報化」のための機器・設備も変遷して来ました。はじめは複写・複製のための設備から、録画・再生ができる機器、入力・測定のできる端末、配信・共有のためのネットワーク、体験できるアプリケーション、分析・管理のためのインフラ基盤など、徐々に高度で大規模な取り組みが行われてきた歴史があります。

【これまでに「教育の情報化」で導入された機器・設備】

テレビ、ワープロ(白黒/カラー)、プリンタ、実物投影機、電子情報ボード、大型プロジェクタ、デジタルカメラ、ビデオ機器、ミニコンマイコン、温度センサー、CD-ROM、DVD、テレビ会議システム、ノートパソコン、携帯電話、無線LANUSBメモリ、電子黒板、小型プロジェクタ、スキャナー、電子黒板、電子教科書、タブレットPCスマートフォン、ゲーム機器、VR端末

これは想像ですが、もしかすると教育の情報化の歴史そのものが、「私たちが新しい情報技術(テクノロジー)を使い慣れる手順」とそっくりな流れで進歩したのかもしれません。

というわけでこのシリーズでは、「私たちが新しい情報技術(テクノロジー)を取り入れるときの手順」という一歩引いた目線に立って、今、何が起こっているのか俯瞰していきます。

どの現場が舞台なのかを厳密には区別しません。保育園でも学校でも、進学塾でも家庭でも、似たような問題とその解決法が同じように生まれているからです。とはいえ、すべてを扱うと何冊でも本が書けてしまうので……本連載では乳幼児期から児童・学童期の子供に関わるサービスに絞ってお伝えします。

 

→ いよいよ次回から、情報化の流れを辿ります!

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(著作:福田千津子・菱沼美咲姫+編集部 編集・構成:編集部)