今年からいきなりデジタル活用(DX推進)担当になったひとにおすすめの本――データ活用の14ステップ別に(前編)【連載:Jdexの本棚から】

はじめに

  • 「データの民主化」にまつわる連載書評「Jdexの本棚から」を始めます。
  • 初回は、「データ活用の14ステップ」に沿っておすすめの出版社をご紹介。
  • 全3回に分けて、「国際潮流の理解」から「実践と展開」まで数冊ずつ取り上げます。

 

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連載書評「Jdexの本棚から」を始めます

社員やJDEX運営チームメンバーによる「本」の紹介コーナーです。市販の印刷書籍だけでなく、ウェブ記事や論文、ホワイトペーパー、白書・年鑑なども取り上げます。

 

Jdexのテーマである「日本のデータを民主化する」ことに役立ちそうな「本」なら、基本・入門から定番書、話題作、変わり種、古典、同人誌まで、分けへだてなく取り上げます。



【注意】データ活用に挑む前に

この記事は、次のような方におすすめです。

  • 経営者・取締役の半分以上が、科学的な調査・分析を体験したことがある
  • 「事実」と「思い」を分けて話し合う文化が根づいた職場にいる
  • じぶんが知りたいことの「見当」がついているか、その助言を得やすい
  • データが「手元」にあるか、頼めば「ほどなくして」手に入る
  • それなりに「分類」され、多少は「整理」の行き届いたデータ基盤がある

 

次のような方が挑戦をすると、はじめは思わぬトラブルに遭うことも。

 

  • 経営者・取締役の全員に、科学的な調査・分析の経験が一度もない
  • その場の「空気」と「思いつき」でものごとが決まる
  • 忙しすぎて、「将来予測」「過去のふり返り」に時間を割くひまがない
  • 細かい規則だらけで、ちょっとした依頼にも恐ろしく労力がかかる
  • 残業代が出ない、無給の休日出勤など、労働者の権利が保障されていない

 

もしもあなたの組織が次のようなら、まずは「危機からの脱出」に尽力すべきです。

 

  • 政治闘争やクーデターが起き、長期化しそうだ
  • 財務状態が不安定で、改善の見通しが立たない
  • 文書・データが改竄または検閲されている
  • 汚職や不正、差別が放置されている
  • 基礎的な教育が受けられず、従業員の身の安全が守られない

 

「データの民主化」とは?

「データの民主化」とは、専門家や権力者、資本家だけでなく、だれもが自由に、思いどおりにデータを扱えるようにすることです。データ産業界では、たとえば、次のように説明されます。

 

「データがどこにあっても、どんなデータでも利用でき、誰もがデータを理解し、インサイトを得て、恩恵を受けられるようにすること」(Tableau)

 

「特定の技術・ツールの総称というより、企業内の多くのプレイヤーによるデータ活用の文化、およびその状態を目指す取り組みを示す概念・組織文化」(NTTデータ

 

 

昔の日本をふり返っても、コンピュータが家庭・職場に普及する前の時代から、「知的生産の技術」「推計学のすすめ」「科学的思考」といった言葉はありました。いま思えば、個人にできる「データの民主化」の術を説いていたのでしょう。

 

そう考えると、情報技術のトレンドがどれだけ移り変わっても、世界各地で「データの民主化」が進んでいく歴史は続きそうです。

 

www.chikumashobo.co.jp

 

将来に備えて、データ活用の「知識」蓄積を

それなら、身近な仕事に「データを民主化」する方法を応用すれば、たとえ時代が変わっても、どの国の・どの職場でも働けるようになる気がしませんか。(さすがに言いすぎ?)

 

IT業界の「旬」は移り変わりが激しく、たくさんの新語が現れては消えています。たとえば、スパコン電子図書館ユビキタス、IT革命、Web2.0、オープンデータ、EBPM、データサイエンス、ビッグデータ、IoT、AI、ブロックチェーン量子コンピュータ、DX、NFL、ロボティクス……etc.

 

とはいえ、『インフォメーション―情報技術の人類史―』が太古から現代までを通史したように、どの技術も「データ(記録された事実)」を介して「情報(知りうること)」届ける手段であることには変わりありません。

 

技術の進歩は、次のような私たちの願望を叶えることに寄与し続けてきたし、これからもきっとそうでしょうから。

  • 多くのひとに
  • 安価に・低労力で
  • 速く・即時に
  • きめ細かく・詳しく
  • より長持ちするように

 

www.shinchosha.co.jp

 

おすすめ出版社を「14ステップ別」に

というわけで、連載初回となるこの記事では、幸か不幸か自組織の「データの民主化」を担うことになったビジネスパーソンのみなさまに向けて、おすすめの本と出版社をいくつか紹介します。小学校の新学習指導要領「算数」の参考書や、高等学校情報科「情報Ⅰ」教員研修用教材のように、大人が読んでもためになる本までとりあげます。

 

分類のやり方は、CRISP-DMPPDACをお手本にしました。どちらも昔からある「データ活用の指針」で、いまでもビジネスの現場で使われています。両方のいいところを拝借して、こんな風に分類してみます。

 

  • A.情報収集
    • 01.国際潮流の理解
    • 02.日本市場の現状把握
  • B.問題設定(ビジネス理解)
    • 03.基本戦略
    • 04.組織開発
    • 05.ビジネス課題の特定
  • C.調査計画(データ理解)
    • 06.リサーチデザイン
    • 07.データの探索と吟味
    • 08.データ調達と契約
  • D.データ(データ準備)
    • 09.メタデータ管理
    • 10.データ前処理
    • 11.データパイプライン
  • E.分析(モデル化・評価)
    • 12.統計解析と機械学習(AI)
    • 13.データビジュアライゼーション
  • F.結論づけ(展開・共有)
    • 14.実践と展開

 

 

www.poplar.co.jp

 

先に「実践と展開」から!?

もしもあなたが組織を率いるリーダーなら、部下・同僚に「14.実践と展開」から行うようすすめるのも一考です。常識とは真逆ですが、とにかくあれこれ試してみて、「考えなしには、何も上手くできない!」と体感してもらうことにはなります。

 

ありがちな笑い話ですけど、「国際潮流や市場動向、流行り言葉にはやけに詳しいのに、じぶんでは簡単な表計算すらまともにできない」という方はたくさんいます。そのまま放置していると、いつまで経っても「A.情報収集」「B.問題設定」の次へ進めません。

 

 それどころか、空想上の「最新技術」や根拠のない「楽観見通し」、ありもしない「儲け話」にだまされ続けることにもなりかねない。その積み重ねが、いわゆる「デジタル敗戦」につながったのだとしたら、私たちの世代がそれをくり返すべきではないのでしょう。

www.chuko.co.jp

 

14の失敗リストでつくる「データ戦略の原型」

現場の・実際の・現物による・事実にふれることを、とにかく大切に。「何度でも、ちいさく、たくさん失敗する」ことを優先したいものです。日本ではまだまだ知られていませんが、重要なエッセンスは「DataOps宣言」にまとまっています。

 

仮に、前述したすべての工程でしくじっても、たったの14回で済みます。もし、5月の連休明けから毎週1回2時間ずつまちがえれば、お盆休みまでに終わります。何もせずに一生を棒に振るよりマシですよね。

 

DX推進は法人のダイエットです。先行文献の力を借りて、14の失敗リストをつくりましょう。そのリストは、あなたの組織にしか作れない、本当に役に立つ「データ戦略の原型」になるでしょう。

 

bookclub.kodansha.co.jp

 

01.国際潮流の理解

新型コロナウイルス感染症の変異株とワクチン供給の動向によって、各国の社会情勢は大きく変わっていて、世界銀行世界経済見通し』などの年次報告も様相が一変しています。

 

何を参照すべきか明言しづらいものの、デジタル変革(DX)の歴史に話を限れば、スプリンガー社がまとめた『Digital Transformation Now!』が要覧に便利です。ビジネス界向けに、考え方の整理法も収録されていて、ワークショップ手法に応用できます。

 

IT業界でよく参照されるのは、ガートナー『マジック・クアドラント』でしょうか。テクノロジーのハイプサイクルが技術潮流のマッピングだとすると、マジック・クアドラントは製品・サービスの簡易マップです。ブラウザ検索するとたくさん見つかる、分野別の「カオスマップ」と組み合わせるのもおすすめです。

 

私たちの会社が携わるデータ流通の世界でいえば、ガートナー『情報の経済学:競争優位のための情報資産』がよく知られているそうです。Dawexの戦略担当が来日したとき、私たちと昼食をたべている時に教えてくれました。

 

www.gartner.com

 

02.日本市場の現状把握

くれぐれも、「真実」を語るなどとうそぶく、安っぽい陰謀論を鵜呑みにしてはいけません。無料コンテンツとしておすすめできるのは、内閣府白書等(経済財政白書、世界経済の潮流、地域の経済等)』です。日本の現状分析がしっかりまとまっています。知るひとぞ知るデータブックとして、総務省日本の統計』もおすすめ。何十種類もの統計が要覧できて、基幹統計の用例としても使えます。

 

もう少し踏み込んで、技術潮流を理解したい場合は? 『角川インターネット講座』のどれか1巻でも読んでみると、気になるIT文化の展望が得られます。最近の注目トピックなら、野村総合研究所「『ITロードマップ』」やアクセンチュアテクノロジートレンド」が明快です。ついに復刊した編集工学研究所『情報の歴史21』も、大局観をつかむのに最適です。

 

国レベルの政策課題は、NewsPicsパブリッシング『シンニホン』に要約されています。ビジネス潮流の変化を論じた日経BP社『アフター・デジタル』と合わせて読むと、現代の日本社会への理解が深まります。

 

shop.eel.co.jp

 

03.基本戦略

坂村健DXとは何か』が、DXとは「その本質は”制度改革”」(帯文より)であり、「結局大事なことは、社会の側もDXを進めるためには自らを変える勇気がないとダメ、ということだ」(本書より)と指摘します。

 

「自らを変える勇気」を持つにはどうすればいいのか。「悲劇」の物語を、アンチパターンとして疑似体験することはおすすめです。ビジネス書やIT読みもの、新書・文庫レーベルを持つ出版社が、ロングセラーをいくつも手がけています。

 

ダイヤモンド社は、100年つづく前からある経済雑誌の老舗として、ビジネスパーソン向けの実用書、自己啓発ライフハックのほかに、硬派な経営書も刊行します。たとえば『人と企業はどこで間違えるのか? 成功と失敗の本質を探る「10の物語」』は、文芸書に引けを取らないほど美しい文章で、ある企業の転換点となった意思決定について、重い教訓を伝える物語を伝えてくれます。中央公論新社失敗の本質』と併読すると、日本と海外の文化のちがいも少し分かります。

 

非-技術者向けのビジネス・ノンフィクションなら、日経BP社の刊行物が充実しています。『デスマーチ 第2版』のような読みやすい指南書のほか、近年の話題書『みずほ銀行システム統合、苦闘の19年史 史上最大のITプロジェクト「3度目の正直」』のように、骨太の企業実録も扱っています。

 

紛争事例に学ぶ、ITユーザの心得』のように、失敗したビジネスの終着点である「裁判」も、リアリティある実例を学べます。本書の出版元である翔泳社は、プログラミング言語の解説書やワンテーマの入門書、ソフトウェア開発手法の手引き、その他の資格書・実用書を多数ラインナップしています。(中編へつづく)

 

(文責・上島邦彦)